第2170冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・イェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

  • フィードバックを使うために大事なのは、与えられたフィードバックを使うのが当たりまえで、使いたくなるような文化を創ることだ。そこには参加者の責任感がある。スタッフにフィードバックを与えたあと、すぐにどう思うか、役に立つかなどと聞いてはいけない。代わりに、スタッフがフィードバックを「試した」ときにうまくいったか、何回試したか、今度はいつどこで試したかと聞くのだ。


最近私たちはワークショップでこの課題に取り組んだ。典型的なワークショップでは、参加者が授業のシミュレーションでロールプレイをおこなう。ひとりが「教師」役、テーブルを囲んだほかの仲間が「生徒」役になる。「教師」は訓練したばかりのテクニックを2、3分間試し、そのあと仲間からフィードバックをもらう。


そこで気づいたのは、何度かくり返さなければならないということだ。練習で苦労して、フィードバックをもらい、もう一度やる。それでもなお、グループのメンバーからもらうフィードバックがいかに役立つか気づかないことが多かった。悩んでいるときに仲間が何か提案しても(やれば格段によくなる小さなアイデアが多い)、「教師」は微笑んでうなずき、それでおしまいにする。そうして貴重なアドバイスは宙に浮いてしまった。


練習するうちに、もうひとつ役割が必要なことがわかり、「コーチ」役を追加した。「コーチ」は「教師」の「よい」面をひとつ、「提案」する面をひとつ見つけ出す。よい面とは、すばらしいので続けるべきだと思うこと、提案する面とは、もっとうまく、またはちがうやり方でできたと思うことだ。ロールプレイを開始して2分でやめ、「コーチ」がフィードバックを与える。「教師」は、必要ならば内容を確認するごく短い質問をして、そのフィードバックを使ったロールプレイを最初からやり直す。


この仕組みのよい点は、暗黙のうちに責任感が生まれることだ。つまり、フィードバックを無視するのがむずかしくなる。まわりの6、7人がフィードバックを聞いていて、そのまえですぐフィードバックを試すことが求められるからだ。実際に試さなければ失礼になる。もうひとつのすぐれた点は、フィードバックのあと、ロールプレイをまた最初から同じ状況でやリ直すことだ。続きから始めたのでは、前回フィードバックを必要とした条件が出てこないかもしれない。最初からくり返すことで、フィードバックを確実に利用するきっけかができる。3つめのよい点は、与えたフィードバックが効果的だったか「コーチ」がすぐに確認できることだ。効果的なフィードバックを与えるのがひとつの職務である教育者の訓練だから、このことは重要である。


訓練の参加者は、ほんの小さな変更が大きな効果を発揮することに驚いた。たとえば「コーチ」が質問するときには笑顔を見せ、腕はうしろにまわしたほうがいいと言う。「教師」は最初は疑っているかもしれないが、試してみると思いがけずフィードバックが力を発揮する。結果はすぐに表れた。背中を押されるかたちでフィードバックを使った教師たちは、その働きを実感し、小さな変化が非常に大きなちがいを生み出すことを知ったのだ。


私たちはこのアイデアをほぼすべてのロールプレイに取り入れた。やがて、参加者がフィードバックを使って交流し、フィードバックを使いながら練習して、自分たちの向上を確認し合うこと自体が目的になった。やらない言いわけを思いつくまえにおこなうフィードバックを使った練習は、目に見えるちがいを生み出し、参加者は世界を切り開く自分の力を信じられるようになる。


教師がフィードバックを「使って」練習できるように訓練内容を見直してから、私たちはこのアイデアをほかの状況にも当てはめるようになった。そのうちのひとつはどんな組織でも使える。マネジャーを対象とした、きわめて重要か困難な会話の練習だ。この練習は、ビジネス界ではほとんどおこなわれていないが、抜群の効果を発揮しうる。組織内で練習が必要と考えられていない典型例のひおっつだ。ダン・ハースとチップ・ハースの好著「スイッチ!」にあるとおり、「ビジネス業界の人々はふたつの段階に分けて考える。計画段階と実行段階だ。その中間に『学習段階』や『練習段階』はない。ビジネスの観点では、練習は粗末な実行でしかない」。


従業員のスーザンと重要な話し合いをしなければならないマネジャーのデイビッドについて考えてみよう。スーザンは有能で頭の回転も速いが、細かいことをいい加減にやる癖があり、フィードバックを「指導」(マネジャーとして、こうしてもらいたい)というより「アドバイス」(これを試してみたらいいんないかな?)ととらえがちだ。それはまちがいを引き起こし、業務に悪影響を与えるだけでなく、スーザンとデービッドのあいだの緊張感も高めていた。デービッドはスーザンに手を焼いていて、雇用契約を更新しない気持ちに傾いている。スーザンと直接話し合って、そういう概念を伝え、何が問題なのかを具体的に説明するつもりだった(またしても、だが、これを最後にしようと思っている)。その準備のために、デービッドは上司のローラと打ち合わせをして、ロールプレイをおこなう。ロールプレイのあいだ、フィードバックがつねに与えられる。まず初めにデービッドが、指摘したい点をまとめて話したとしよう。