第2124冊目 「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則

「権力」を握る人の法則

  • 上司を気分よくさせる


自分の仕事ぶりについて考えるとき、ぜひとも確認すべき点が一つある。それは、自分の行動や発言、そして仕事の成果は、上司をいい気分にさせているか、ということだ。いい気分というのは、あなたに満足するという意味ではなく、上司自身が自分に満足しているか、という意味である。あなたがいまの地位を確保し、さらに上に行く確実な方法は、端的に言って上司をご機嫌にしておくことなのだから。


自分に自信のない人はに限らず、ちょっとばかりうぬぼれて気分よくなりたいのは人情である。客観的に見れば人間は失敗から学ぶことの方が多いのだが、誰しも自分はなかなかよくやっている、結構優秀だなどと思っていたい。これを自己高揚動機と呼ぶ。こうした動機があるため、たいていの人が肯定的な意見を聞こうとし、否定的な意見を煙たがる。しかも多くの人は自分の能力や成果を過大評価し、「自分は平均以上」だと考えている。知性、ユーモアのセンス、運転能力、容姿、交渉能力などについて自己認知の調査をしたところ、回答者の半分以上が「自分は平均以上だ」と答えたという(そういうことはありえない)。また人間は自己愛が強いので、自分に似た人を好む傾向がある。さまざまな調査でも、人間どうしが惹かれ合う要因として類似性が重要であることが確かめられている。たとえば名字か名前のどちらかが自分と似ている人と結婚する確率は、そうでない場合よりも高い。また、被験者にランダムな番号を割り当てた実験では、自分の誕生日と似た番号の人に好意を抱くという結果が出ている。さらに、自分に似た人を好ましく思う傾向から、自分の属する集団(内集団)をひいきし、それ以外(外集団)を差別しがちである。このような傾向を内集団バイアスと呼ぶ。同様に、自分と似た社会的カテゴリー(人種、出身地、経歴など)に属する人も優遇する傾向がある。


個人批判は、確実に上司を不機嫌にする。とりわけ上司が重大視する問題、したがっているいささか不安を抱いている問題に関して痛いところを突いたら、上司の気分を害することはまちがいない。大手クレジットカード会社で副社長を務めるメリンダは、マネジャーだっった頃にこれをやってしまった。当時のメリンダは審査部に属して顧客の購買・支払予測モデルの作成に携わっており、信用調査担当のオフィサーに昇格することをめざしていた。信用調査チームのチーフとの関係は良好だったから、十分に手応えはあった。ところがある日の会議でチーフ直属の部下が不快な行動をとったことに腹を立て、
会議の場であんなふうに怒鳴るなんて、チーフそっくりです」と余計なことを言ってしまう。チーフ自身もひそかにその点を気に病んでいたため、この一言にいたく傷つき、ボスが誰かを思い知らせるためだけの目的で、メリンダの昇格をしばらくお預けにした。


AP通信の敏腕記者ブレントも、同様の憂き目に遭っている。彼は世界各地を飛び回り、文字通り命を張って記事を書く。二〇〇六年には北朝鮮の地下核実験という超特ダネをものにした。にもかからわず、その年のブレントの人事評価は芳しくなかった。これは、編集長に敵対的だったためと考えられる。ブレントは、編集長のせいでせかっくにニュースが台無しだ、とうかつにも上司に愚痴をこぼしていたのである。


以上から導き出せる教訓は、こうだ。上司の関係に気を配りなさい、すくなくとも仕事の成果と同じ程度には気をつけなさい。ということである。上司がミスを犯したら、自分以外の誰かが指摘するように持って行く方がよい。もしどうしてもあなたが指摘しなければならないのなら、上司自身が気づくように持ちかけるか、でなければ上司の能力のせいではなく、周囲の状況や外部要因のせいにすること。いちばんやっていけないのは、不快なヤツだとか、ナマイキだとか、敵対的だなどと認識されてしまうことである。


上司を気分よくさせる最善の方法は、何と言っても誉めることである。このことは調査によっても裏付けられており、誉め言葉は影響力を手にする効果的な方法だとされている。誉められて悪い気のする人はいないし、誉めてくれた相手に好意を抱くのも自然な感情である。そして好かれれば、あなたはそれなりの影響力を持てるようになる。誉め言葉には、ギブアンドテイクの法則を呼び起こすという効果もある。あなたが誰かを誉めれば、その誰かもお返しにあなたを誉めるようとする。プレゼントをもらったらお返しをしたり、パーティーに呼ばれたら呼び返したりするのとまったく同じで、誉め言葉も一緒の贈りものと考えてよい。さらに誉め言葉は、ほとんどの人が持っている自己高揚動機に応えるという意味でも効果的である。