第2077冊目 カリスマは誰でもなれる オリビア・フォックス・カバン (著), 矢羽野 薫 (翻訳)


カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

  • プレゼンス


自分のプレゼンスを意識することに集中しようとしても、心がつねに揺れていることに気がついただろうか。完全なプレゼンスを維持することは、いつも簡単なわけではない。その理由は大きく2つある。


1つ目の理由は、人間の脳が、視覚やにおい、音など、新しい刺激に注意を払うようにできていることだ。脳の回路は、新しい刺激に注意を奪われるように配線されてりう。集中しようとしても、「こちらのほうが大切かもしれない」「あれに食べられるかもしれない」と気が散りやすい。これは、私たちの祖先にとって生き延びるすべでもあった。2人の男が草原で狩りをしていて、家族に差部させるアンテロープを探して地平線に目を凝らしている。そのとき遠くで何かが光った。すぐに反応しなかった男は――子孫を残せない。


2つ目の理由は、現代の社会が気を散らすように助長していることだ。私たちの脳には絶えず刺激が流れ込むため、もともと気が散りやすい傾向に拍車がかかる。その結果、つねに注意力が分散して、ひとつのことに完全に集中できない「連続的な部分的注意力」の状態になりやすい。現代の私たちは何かに完全に集中することなく、絶えず部分的に気が散っている。


したがって、完全なプレゼンスを示せなくても、自分を責める必要はない。当たり前にことなのだ。プレゼンスは、ほぼすべての人にとって難しいスキルだ。ハーバード大学の心理学者ダニエル・ギルバードらが2250人を対象に行った研究によると、普通の人は、1日の半分近くは「心がさまよっている」状態だという。瞑想の達人でさえ、瞑想の最中に気が散るというのだから。


しかし裏を返せば、うれしいことに、プレゼンスの能力を少し高めるだけでいいということだ。完全なプレゼンスを持続できる人はほとんどいないのだから、ほんの短い時間ずつでも、ときどき完全なプレゼンスを示すことができれば大きな変化を起こせるだろう。


誰かと話しているときに、自分が完全に集中しているか、ほかのことに気が散っていないか、折に触れて確認しよう(次に何を言うかを考えることも、会話に集中していない証拠だ)。先にエクササイズのように自分の呼吸やつま先の感覚に一瞬だけ集中することによって、目の前の瞬間に意識を取り戻し、話をしている相手に集中できるだろう。


私のあるクライアントは、プレゼンスのエクササイズに初めて挑戦した後、次のような経験をした。「気がついたらリラックスして笑顔になっているのです。私が何も言わなくても、周囲の人が突然、笑顔を返してくれるようになりました」


先に紹介した1分間のエクササイズがうまくいかなくても、落ち込む必要はない。プレゼンスのエクササイズをするだけで、あなたのカリスマ性は高まっているのだ。発想の切り替え方を学び、プレゼンスの重要性とプレゼンス不足の代償を理解したあなたは、すでに一歩先を行っている。それだけでも、この本を手に取った価値はあるだろう。


では、このスキルを日常生活でどのように実践できるだろうか。たとえば、オフィスで同僚から意見を求められたとしよう。あなたは次の打ち合わせまで数分しか時間がなく、話をしていたら間に合わないかもしれない。


同僚が話をしているあいだも次の約束を気にしていたら、不安になって集中できないだけでなく、心ここにあらずだという印象を与えてしまう。同僚は、あなたの自分の問題をあまり気にかけていないから、真剣に聞かないのだろうと思うかもしれない。


このときのプレゼンスを示す3つのテクニック――音や呼吸、つま先に一瞬だけ意識を集中する――のいずれかを実践するば、目の前のことに集中力を取り戻せるだろう。あなたが本気で集中していることは、あなたの目や表情に表れ、相手はそれに気づく。一瞬でも完全なプレゼンスを示せば、相手は敬意を払ってあなたの言葉に耳を傾けるだろう。完全なプレゼンスはボディランゲージにも表れ、カリスマを高めるしぐさにつながる。


カリスマを発揮できるかどうかは、ひとつひとつのやりとりに向き合う時間の長さではなく、プレゼンスをどれくらい示せるかで決まる。完全なプレゼンスを示すことができれば、あなたは「その他大勢」ではなくなり、相手の記憶に残る。5分間の会話でも完全なプレゼンスを示せば、相手を感動させ、感情的な絆が生まれる。あなたが一緒にいる人々はあなたの完全なプレゼンスを感じ、あなたにとってその瞬間、自分が世界でいちばん大切な存在だと思える。



私のあるクライアントは、プレッシャーを感じているときや、複数の依頼に対応しているときに、しばしば周囲を怒らせていた。誰かが彼のところに来て話を始めて、彼はそのときやっていることに意識が向いて、相手は軽視されたと感じていたのだ。


そこでプレゼンスを高めるために、意識を集中するエクササイズを実践したところ、彼は次のように言った。「ほんの一瞬でも完全なプレゼンスを示すことがいかに大切か、よくわかりました。これらのテクニックのおかげで、その瞬間その瞬間に集中しやすくなったんです。私のオフィスに来た人たちは、自分が特別な存在だとして大切にされていると感じながら帰っていきます」。彼にはほかにもさまざまなコーチングをしたが、このレッスンはとりわけ価値が高かったという。


プレゼンスを示す能力を伸ばすと、ボディランゲージや、人の話を聞くスキル、集中力が向上するだけでなく、人生をより楽しめるようになる。祝い事や、愛する人と質の高い時間を過ごすときなど、特別な場面にかぎって気が散るものだ。


瞑想の権威であるタラ・ブラシェにとって、プレゼンスの習得は生涯のテーマだ。彼女は次のように語っている。「私たちはつねに、いま起きていることや、次にやるべきことについて考えている。友人に会って抱擁しているときも、いつまで抱き合っているべきか、体を話したら、何を言えばいいかと頭の中で計算していて、再会の喜びも半減する。ひとつひとつの行動を急ぎ、完全には集中していない」。しかし、いまこの瞬間に集中すれば、人生の素晴らしい瞬間を存分に感じて楽しめるだろう。


人と向き合いながら集中力を修正する3つのテクニックは、訓練を重ねることによって、まるで生まれつきの本能のような習慣になる。目の前の瞬間に集中すれば、より大きな影響力を持ち、相手に自分を印象づけ、地に足の着いた人と見なされる。つまり、カリスマのプレゼンスの基礎を築くことができる。