第2070冊目 FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学  ジョー ナヴァロ (著), マーヴィン カーリンズ (著), 西田 美緒子 (翻訳)


FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

  • なだめ行動の大切さ


辺縁系の固まる、逃げる、戦うという反応がノンバーバル行動に与える影響は、方程式の一部にすぎない。ノンバーバル行動を学ぶうちに、辺縁系の反応があれば――特に、いやま経験や脅威を感じる経験に対する反応があれば――その後には必ず「なだめ」の行動が続くことに気付くだろう。


このような行動は、文献では「適応子」と呼ばれることが多いが、何か不快なことをまったく手に負えないことを経験した後で、気を静める役割を果たすものだ。脳は「通常の状態」に戻ろうとして、元気づける(なだめる))行動をとるよう体に命じる。そうした行動はシグナルとなって同時に外からも読み取れるため、私たちはそれを観察し、その場の状況に応じて解読できる。


なだめ行動は人間に特有のものではない。たとえば、ネコやイヌは自分の体をなめたり互いの体をなめ合ったりする。人間の場合のなだめ行動は多種多様で、はっきりわかるものもあれば、微妙で捉えにくいものもある。なだめ行動の例を挙げろと言われると、たいていの人はすぐ小さい子どもの指しゃぶりを思い浮かべるだろう。ただし成長して指をしゃぶらなくなった後にも、社会的に受け入れられる目立たない方法で気持ちを静めていることには気付いていない(たとえばガムをクチャクチャやったり、鉛筆を噛んだりしている)。もっとも微細ななだめ行動となると、ほとんどの人は見分けられるし、相手の考えや感情を明らかにする上で重要なことも知らない。それではもったいない。ノンバーバル行動をうまく読み取るには、人間のなだめ行動を把握して読み解くことが不可欠になる。なぜだろうか? それは、なだめ行動が人のその瞬間の心の状態をとてもよく表し、しかも並はずれた正確さをもっているからにほかならない。


私は、相手が不安を感じていること、また私がしたことや言ったことに対して否定的に反応していることがわかるように、なだめ行動を探す。面接の場では、特定の質問や意見に対する反応に、そのような行動が垣間見えることがある。不快のシグナルとなる行動(たとえば、身をそらす、顔をしかめる、腕を組んだり緊張させたりするなど)をした後には、普通、脳が手になだめ行動を命じる。私がこうした行動を探すのは、相手の気持ちがどう動いているかを確かめるためだ。


具体的な例を挙げると、「ヒルマンさんを知っていますか」という質問のたびに相手が「いいえ」と答えながらすぐに首や口を触るなら、その質問に対してなだめ行動をしていることがわかる。その人がウソをついているかどうかはわからない。ウソを見抜くのは実に難しいからだ。それでも、相手がその質問でいやま思いをい、あまりに不快なので訊かれた後に自分をなだめる行動をせずにはいられなかったのは確かだ。それなら、その点をもっと深く追究しみるべきだ。なだめ行動は、ウソや隠しごとを見抜くのに役立つことがあるので、捜査官は重要な要素として覚えておく必要がある。相手が正直に話しているかどうかを確かめようとするより、なだめ行動に注目するほうが、有意義で、信頼性も高いようだ。それによって、何が相手を困らせたり苦しめたりしているかもわかることがある。これを知っていれば、それまで見えなかった情報が明らかになって、新たな視界が開けることもある。