第2053冊目 FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 ジョー ナヴァロ (著), マーヴィン カーリンズ (著), 西田 美緒子 (翻訳)


FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

  • 手の行動の変化が重要な情報を伝える


すべてのノンバーバル行動の共通点として、手の動きの急激な変化は、その人の考えや感情が突然変わったことを表している。恋人同士が食事中に、お互いの手を球に引っ込めるような光景があれば、何か不都合なことが起きたサインだ。手を引っ込めるのは数秒という短い動作かもしれないが、とても正確な、人の感じていることをその場で伝える指標になる。


ゆっくりと手を引っ込める動作も注目に値する。少し前、大学時代からの友人夫婦に夕食の招待を受けた。食事を終えてテーブルを囲んでおしゃべりしていると、話題がローンのことになった。二人は金銭問題で困っていると打ち明けてくれた。妻が「まるでお金が消えていくようだ」と不満を漏らすと、夫の手が同時に、だんだんに、テーブルの上から消えていった。妻が話している間には夫は手をゆっくりと引っ込め、最後に膝の上にのせたのを、私は見ていた。このような遠ざかる動作は、心理的逃走(辺縁系の生き残り機能の一部)の手がかりで、何かに脅かされたときによく起こる。その行動から、夫が何かを隠していることが見てとれた。後でわかったのだが、夫は夫婦の共通口座から金を引き出してギャンブルに使っており、結局はそのことで家庭まで失う羽目になった。密かに金を引き出している後ろめたさが、テーブルからゆっくりと手を引っ込めた行動の理由だったわけだ。それはゆっくりした変化だったが、何かがおかしいと思わせるには十分だった。


手の動きが急に止まるのは、手の観察で見逃せない重要な要素のひとつになる。手が説明や強調の動きを止めたなら、たいていの脳の活動に変化があったことを示している(おそらく本気度が不足したのだろう)。そこにはきちんと気付いて見極めるべき原因があるはずだ。すでに説明してきた通り、手の動きを制約するのはごまかしのシグナルではあるけれど、すぐにその結論に飛躍してはいけない。手の動きが止まった瞬間に推測できるのは、脳が別の感情や思考とコミュニケーションしているということだけだ。その変化はただ、さまざまな理由から、自信の低下や、今話されていることへの関心の低下を反映しているだけかもしれない。普段の手の行動では見られない要素が見えたなら――増えたことでも、減ったことでも、ただ普通ではないことでも――その意味を考えるのを忘れないようにしてほしい。

  • 手と指のノンバーバルについての結び


ほとんどの人は、相手の顔について考えるのに多くの時間を割くあまり、手が伝える情報を十分に活用できていない。人間の敏感な手は、周囲の世界を感じるだけでなく、その世界に対する反応も表現している。ローンが許可されるかどうかと心配しながら銀行の椅子に座っているときには、手を前に出し、指を(祈るように)組み合わせ、心の中の緊張と不安をめいっぱい表しているだろう。また会議中には、手で尖塔のポーズをとり、自信のほどを周囲に伝えているかもしれない。昔自分を裏切った人の話をするときには、手が震えることもある。手を指はとてもたくさんの重要な情報を伝えている。私たちはただ観察し、前後関係の中でその動作を正しく解読すればいい。


たった一回の触れ合いかれでも、相手が自分のことをどう感じているかがわかる。手は感情の状態をはっきり伝える道具だ。手のしぐさをノンバーバル・コミュニケーションに利用すると同時に、周囲の人々についての貴重なノンバーバル情報を自分のものにしてほしい。