第2050冊目 「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則

「権力」を握る人の法則

  • ああんたの最大の敵は自分自身である


三番目の重大な障害物は、信じられないかもしれないが、あなた自身である。自分の最大の敵が自分であることは少なくない。それは何も出世の階段を上るときだけではない。自分が自分の邪魔をしてしまうのは、自分のことをいい方へいい方へと考え、好ましい自己像を抱くことに一因がある。そして逆説的に聞こえるが、この自己尊重を維持する最善の方法は自分から先に降参することであり、あるいは自分のめざす道をわざわざ閉ざすような障害物を置くことなのである。


セルフ・ハンディキャップと呼ばれるこの現象の存在は、数多くの研究で実証されている。人がセルフ・ハンディキャッピングに走る論理は、拍子抜けするほど単純である。まず、自分は優れている、能力がある、と思っていたい。だが、失敗をすれば、この自尊心はいたく傷つく。ところが意図的に失敗の確率を高めるような細工をしておけば、実際に失敗しても、自分の能力が低いせいではないと言い訳できる。たとえば数学の試験の前に読書に耽るとか、他の科目の勉強を必要以上に時間をかけるなどは、その代表例だ。そんなことをすれば、当然ながらよい点は取れないが、積極的に上をめざさない人は、自分が昇進しないのは人格や能力に問題があるからではなく、自らの選択の結果なのだと暗に示すことができる。駆け引きはキライというベスの発言は、負けたときの痛手からプライドを守るものと言えよう。


セルフ・ハンディキャッピングをしがちな傾向には個人差があることも調査によって確かめられており、自分の不首尾を弁解する度合いは予測可能とされている。またセルフ・ハンディキャッピングが実際の試験の成績や仕事の成果に悪影響を与えることも、調査で実証されている。故意に失敗要因を作り出し、失敗は自分のせいではないと釈明できる状況を整えておくことが、現実にパフォーマンスの低下を招いてしまうのである。本書を読み進めるときは、ぜひこのセルフ・ハンディキャッピングという概念を念頭に置いてほしい。そうすれば内容が理解しやすくなるだろう。


自分に不利は工作をしておくほか、初手から降参するとか、そもそもゲームに参加しないといった行動は、意外に多い。私は数十年にわたって権力や影響力について教えてきたが、最近になって私にできる最大のことは、学生に上をめざす挑戦をさせることだと思うようになった。なにしろ、失敗の屈辱を恐れ、全力を尽くして挑もうとしない学生があまりにも多いからである。


だから、自分自身を乗り越えよう。セルフイメージにこだわるのをやめ、ついでに言えば、他人にどう思われるか気にするのもやめよう。そもそも他人はあなたのことなどそんなに気にしていない。みんな、自分のことで手一杯であえる。自ら努力を放擲すれば、プライドは維持できるかもしれない。だがそれでは、いつまでたっても上には行けない。