第2139冊目 「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則

「権力」を握る人の法則

  • 好き嫌いよりも自分のキャリアを考えよ


ある会食会で、私はハーバード・ビジネススクールの卒業生と隣り合わせになった。このOBは一九九二卒だったので、同期のキース・フェラッジを知っているかと訊ねてみたところ、知っているという。ただし在学中さほど親しくなかったし、フェラッジはクラス仲間ではそれほど人気はなかったとも付け加えた。次に私は、まー気tぇいんぐ関連のコンサルティングをフェラッジの会社に頼んだことがあるかと質問した。するとこのOBは、「もちろん」と答えたのである。「ビジネスでは、好きか嫌いかなんて関係ないからね。大事なのは、できるヤツかどうかってことだよ。それに同期なら何かと便宜を図ってくれるしね」


人間関係をこのように功利的に捉える見方は、別にめずらしいものではない。むしろ、祖行きで生き延びるためには必要だと言える。たとえば、黒人として史上二人目の最高裁判事候補となったクラレンス・トーマス判事の承認を巡って、一九九一年に事件が持ち上がった。判事の部下だったアニタヒル女史が公聴会に出席し、判事が再三にわたりセクハラを働いたと糾弾し、はなばなしく報道されたのである。このとき多くの人が、次の点を疑問に感じた――なぜ判事と関係を持ち続けたのか。ジェーン・メイヤーとジル・アブラムソンは著書『奇妙な司法』の中で、次のように結論づけている。「ヒルがトーマスと日常的に接する現場にとどまったのは、その方が彼女のキャリアにとって有利だからである。トーマス判事は職場で大きな権限を持っていたし、彼女の知るかぎりトーマスとの職業上の関わりを断ち切ることはできない。この状況で、セクハラに平静を装うか騒ぎ立てるかを彼女は決めなければならなかった」


多くの研究が、意見や感情が行動に感化されると結論づけている。具体的には、こうだ。虫の好かない権力者の後ろ盾を必要としている人が、その権力者に友好的にふるまっているうちに、次第に好きになっていくということである。なぜそなるのかについては、さまざまな説明が試みられている。ある説によれば、人間は自分の行動から自分の感情を推しはかるからだという。またミシガン大学のカール・ウェイクは「人間は口に出して初めて自分が何を考えていたかを理解する」からだと主張する。また心理学者レオン・フェスティンガーの認知不協和理論によれば、認知的不協和が起きると、不協和を低減する行動が起きる。したがって、行動と気持ちが不一致の場合には、気持ちの方を行動に合わせようとする。これらの説明から、権力者の力添えが必要な場合、その権力者と接しているうちにやがて好意を抱くか、すくなくとも腹立たしいふるまいを容認するようになっていくと考えられる。これらを一歩進めれば、好き嫌いよりも自分のキャリアにとっては自分にとって役立つかどうかが、近づく相手を選ぶ重要な判断基準となる。