第2121冊目 怒る技術  安藤 俊介 (著)


怒る技術

怒る技術


怒るための準備として、普段から部下との間にハイパー・ラポールの関係をつくっておくことが不可欠です。ハイパー・ラポールを説明するのに分かりやすいのが、男女が結婚する時の関係です。夫である皆さんも思い出してみてください。あなたが結婚した時、奥さんは「これから先、何があってもあなたについていきます」というような言葉を口にしたことと思います。そしてあなたは「死ぬまで君を守ってあげるからね」と応じたのではないでしょうか? こうした絶対的な信頼関係をハイパー・ラポールといいます。ところが、結婚して十年も経つと、そのハイパー・ラポールの関係は崩れがちになってしまいます。あの頃はお互いをリスペクトして、相手の欠点など目に入らなかったのに、年月とともに相手のすべてが嫌になってしまうというケースは後を絶ちません。


そうならないようにするには、圧倒的な実力を維持することです。つまり、結婚した時の幻想を見せ続けるということです。外国映画によくあるシーンのように「君はきれいだ」と言い続けるとか、パンツ一枚でごろごろしないとか、中年太りしないとか……。ある程度の緊張感をキープしながら、現実生活を通してお互いがお互いに幻滅していくのを防ぎ、尊厳を保つのです。特に、男性は女性より身なりがだらしなくなりがちだったり、外見も急速に「おじさん化」する時期があります。威厳をなくさないためにも、ある程度外見に神経を使う努力が必要でしょう。また最近は、妻だけでなく子供までが「自分の服をお父さんの洗濯物と一緒に洗わないで」などと言って、お父さんを敬遠する家庭も珍しくありません。それを当たり前としたくなければ、お父さんは偉大だと家庭に思わせることです。何が偉大なのかというと、お父さんがいないと困ることを家族に行動で知らしめることです。力仕事、日曜大工、車の運転、しつこいセールスへの対処、子供の勉強のフォロー……さまざまな家庭内の仕事を妻まかせにせず、積極的に分担して、お父さんはなんでもできる、なんでも知っている、お父さんがいないとこれができないと思わせる分野をたくさん持つといいでしょう。


これを上司と部下の関係に置き換えると、話は単純です。圧倒的な実力、つまり仕事面で成果を上げるのが最も分かりやすい。イメージとしては、ジョージ・クルーニーのような上司でしょうか。実績を出して、部下に「この人には勝てないな」と尊敬される絶対的信頼感を持たせ、厳然たる上下関係をつくるのです。上司にとって一番楽なのは、自分の指示に対して忠実に働いてくれる部下です。そういう部下をつくるには、このテクニックを使って服従させることがとても重要です。ハイパー・ラポールの関係は一朝一夕には築けるものではありませんが、それができたら信頼関係は長時間続きます。その間、怒ることで部下との関係が気まずくなってしまうことはありません。安定した関係の中なら、どんどん怒っていいのです。


私自身、もちろんクライアントさんとの間にハイパー・ラポールの関係をつくるよう心掛けています。ただ、私の仕事は数字を見せることができません。


そこでどうするかというと、圧倒的な技術を見せることなのです。数字でなければ知識で示していいのです。専門の業界や仕事に関して、相手に「すごい知識だな」と思われれば、その分野で信頼されます。数字をつくるのと同じように、時間や努力が必要だということが容易に想像できるからです。そして圧倒的な自信を見せることも大切だと考えています。クライアントさんに対して媚びない、卑屈な態度はとらない、分からないという言葉は使わない。圧倒的な自信を見せないと相手も不安になってしまうからです。その裏付けとして、これまで何百人、何千人もの方と対話を重ねてきて、実にさまざまな例を分析してきました。実績を持っている、あるいは自分で勉強したという事実があれば、自信は自然と表に滲み出てくるものなのです。