第2086冊目 世界一やさしいドラッカーの教科書 浅沼宏和 (著)


世界一やさしいドラッカーの教科書

世界一やさしいドラッカーの教科書

  • 仕事とは成果をあげること


ドラッカーのマネジメントとは、成果をあげるために行動することです。


成果をあげるために行動することはビジネスパーソンの仕事そのものです。


仕事は成果を意識して行うべきものなのです。


しかし、これは簡単なようで意外と大変です。


次の質問について考えてみてください。


「あなたが昨日あげた成果は何ですか」
「あなたが今日あげようとしている成果は何ですか」
「あなたが今月あげようとしている成果は何ですか」
「あなたが過去にあげた最も大きな成果は何ですか」


いかがだったでしょうか。


なかなかすぐに答えが出てこなかったのではないでしょうか。


答えられなかった人は、普段の仕事では成果を意識していないということです。


それでは本当の意味で仕事に取り組んでいるとはいえません。


仕事とは成果を目ざして意識的に行動していくことなのです。


なんとなく仕事をするのと、成果を意識して仕事をするのとでは、結果がはっきり違います。成果を意識しなければ、仕事ではなく「作業」にすぎません。


成果を意識することこそビジネスパーソンが心すべきことです。自身の仕事の成果を意識することが、仕事のマネジメントの第一歩です。


ところで成果とは何でしょうか?


同じ仕事をしている人や会社であっても、それぞれ求める成果が違ってきます。


ドラッカーは、何を成果とするかを決めること自体が、重要なマネジメント活動であるといっています。


ただし、成果とは外部に対して良い影響をもたらすことです。つまり、成果とは自分の外側にあるものなのです。仕事は外に向けて行われて初めて意味を
持ちます。


ドラッカーは、現代のビジネスパーソンの仕事は、昔の肉体労働の時代とは違って、知識を使って仕事をするようになっていると考えました。


ドラッカーの考える知識にはとても広い意味があります。専門的な知識や情報に限らず、ノウハウ、技術、アイディア、コンセプト、経験などのように人が持っている価値を生み出す独自の能力をさしています。


新しい生産方式も知識ですし、新しい宣伝方法やお客さんに好かれる接客方法も知識です。


もちろん、仕事の進捗度、質・量が、外部にもはっきりわかる作業的部分は、今でも多く残されています。しかし、現代社会では全く知識を利用しない仕事は、ほとんどないといってもよいでしょう。


ドラッカーのマネジメントとは知識を生かして成果をあげることです。


ですからドラッカーのマネジメントはあらゆる仕事で使うことができるのです。


大企業だけではなく中小企業でも使えるものなのです。


ところが仕事で知識を使えば使うほど、その仕事の価値は外から見えにくくなります。


知識を使った仕事には多くの人が関わります。


多くの人がかかわるほど、仕事の中身が外から見えにくくなってしまいます。


自分にとっても仕事の価値がわかりにくくなります。


これが「あなたの仕事の成果は何ですか」という質問に答えられない理由なのです。


ビジネスパーソンの成果は、上司、同僚、部下、チーム、部署、ひいては会社で利用してもらうことでより大きな成果につながります。


成果は他の誰かに利用してもらうものなのです。


他の誰かが利用してくくれることでもっと大きな成果があります。


そのためには、まず自分の仕事の成果が何なのかを意識することが必要です。


自分の仕事の成果はより大きな成果の一部です。ビジネスパーソンの成果は、組織の成果に結び付けられることで大きな成果になります。ここでは全体の成果に貢献するという意識が大切になります。貢献とは成果をあげる行動そのものなのです。


ドラッカーは大きな成果をあげることに貢献することが、自己実現への道であると考えていました。

  • 強みを生かす


成果をあげるためには強みを生かすことが必要です。


人が本当に優れている分野は、せいぜい一つか二つです。


ここで注意することは「強み」と「好きなこと」は違うということです。


アインシュタインはバイオリンの演奏がとても好きだったそうで、毎日4時間も弾いて楽しんでいたそうです。もしもオーケストラのメンバーになれるぐらいなの実力が手に入るなら、ノーベル賞と引き換えにしてもいいと思っていたほどだそうです。


そのエピソードについてドラッカーは次のようにいっています。


「弾くことは彼の強みではなかった。彼は数学をやるのはいつも嫌いだといっていた。しかし、彼が天才だったのは数学においてだけだった」


「強み」とは成果があがるものでなければなりません。「強みを生かす」とは、高い成果をあげる責任を負うことです。成果があがらなければそれは強みではありません。


強みは、成果をあげることによってしか証明されない、客観的なものなのです。


ビジネスパーソンの仕事は強みからスタートしなければなりません。


といっても最初から抜きん出た強み、つまり卓越性を持っている人はあまりいません。


ではどうしたらよいのでしょうか。


まず自分ができることの生産性を、より高めることにねらいを定めるということです。


ビジネスパーソンは自分がさせてもらえないことに目が行きがちです。ドラッカーは、多くの人が上司や会社方針によって、やらせてもれえないことについて愚痴をこぼすことで、自分の時間と強みを無駄にしているというのです。


ドラッカーは強みを生かすビジネスパーソンの行動を次のように説明しています。


「彼らはしてよいことで、かつ、する値打ちのあることを簡単に探してしまう。させてもらえないことに不満をいう代わりに、してよいことを次々と行う」


「何もさせてもらえない」という言葉は、惰性だ働いている人の言い訳にすぎないというのがドラッカーの主張です。


成果をあげるビジネスパーソンとは、実行すべきことを自分から探して見つけることのできる人なのです。「何ができるだろうか」と常に考えていると、手持ちの時間や知識では処理できないほどの仕事があることに気がつくことになります。


このように成果をあげるために積極的に行動することが大切なのです。


「できないことは何か」ではなく「できることは何か」と常に考えて行動すれば、思わぬ成果があがるようになります。そうしているうちに自然と自身の強みに出会うことになります。その強みを徹底的に生かしてさらに能力を高め、やがて人にはマネのできない本当の強み、つまり卓越性を獲得することにつながっていくのです。


強みを生かすとは、ビジネスパーソンとして仕事に真剣に取り組む姿勢の問題です。