第1993冊目 カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本) [単行本] オリビア・フォックス・カバン (著), 矢羽野 薫 (翻訳)


カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)


カリスマ的な話の聞き方


部下のスキルを何でも伸ばせる魔法の杖があったら、最初に改善させたいスキルは何かと訊くと、私のクライアントのCEOは大半が「話を聞くスキル」と答える。話を聞くスタイルは、部下にかぎらずカリスマにとっても不可欠であり、カリスマの達人の多くはこのスキルがきわめて高い。優れた聞き手になれば、何も言わずに聞いているだけで、相手は自分が理解されていると感じる。相手の話にじっと耳を傾けるだけで、強い印象を相手の心に刻み込む。


プレゼンスを伝える3つのカギは、注意深く話を聞くこと、相手の話を遮らないこと、意識的に間をおくことだ。なかでも話を聞くことはプレゼンスの基礎であり、プレゼンスはカリスマの基礎となる。


ジョン・F・ケネディは「最高の聞き上手」として知られ、相手は彼が全身全霊で自分に寄り添ってくれていると感じた。聞き上手だからこそ、相手が誰であれその感情に最大限の関心を払い、心の奥深くで信頼関係を築くことができた。


話を聞くスキルが重要なことは、誰でもわかるだろう。いくつかの工夫をするだけで、あなたも単なる聞き上手から劇的に飛躍できるのだ。話を気くスキルの基本は、適切な心構えだ。プレゼンスを示し、注意を払って、相手の話に集中する意志と精神的能力が必要となる。この能力は、言うまでもなく集中力のカリスマに欠かせないが、ほかにもあらゆるスタイルのカリスマを高める。


私のクライアントに共通する誤解のひとつは、話を聞くことを、「自分の番が来るまで相手に話をさせておく」ことだと思っていることだ。残念ながら、それでは足りない。相手が話しているあいだも、自分が話す番を待ちながら考えごとをしていたら、たとえ自分が次に話す内容を考えているとしても、プレゼンスが欠けていることは顔に出る。あなたが会話に完全には集中しておらず、割って入る隙をうかがっていることは相手にもわかる。


プレゼンスは、効果的に話を聞くために不可欠だ。相手が話しているあいだも上の空にならないようにするテクニックは、すでに学んできた。たとえば、次のように集中力を修正する。

  • 話を聞きながらぼんやりしてしまうなら、呼吸や足のつま先など肉体的な感覚に一瞬だけ意識を集中させてから、会話への集中力を取り戻す。
  • いらいらして集中できないなら、些細なことでもその肉体的な感覚と向き合ってから、目の前にいる相手に再び意識を集中させる。


適切な心構えができたら、次は適切な振る舞いをしなければならない。聞き上手は、相手が自分は心から理解されていると感じられるように振る舞う。


優れた聞き手は、決して話の腰を折らない。相手が言ったことに感動して思わず口を挟みたくなってもだ。それがどんなに温かい褒め言葉だとしても、相手は最後まで話をさせてもらえなかったことに、たとえ少しでも怒りや苛立ちを感じる。私のあるクラインとは、相手の話を遮らないことは、私から学んだスキルの中でも最も重要だと語っている。


非常に優れた聞き手は、自分の話を遮らせることができる。相手があなたの話の腰を折るなら、どんどん折ってもらおう。もちろん、話を遮ることは、彼らにとっても正しい振る舞いではない。しかし、仮に相手の振る舞いが間違っていても、あなたがやるべきことは、相手に「自分は間違っている」と思わせることではない。何回も口を挟もうとしてくるなら、あなたは文章を短くして間をおき、彼らが割って入るタイミングをつくればいい。


人間は、自分の話を聞いてもらえるとうれしくなる。相手にたくさんしゃべらせるほど、相手はあなたを気に入るだろう。ある若いエグゼクティブは次にように語る。「面接では、話の90%を面接官にしゃべらせれば採用されます。私が会場を出るころには、向こうは私をすっかり気に入っています。面接での話題は、彼らにとって大切だったんですからね」


話を聞く達人はさらに、相手に自分は理解されていると思わせる。シンプルだがとても効果的なコツを知っている。答える前に間を置くのだ。ピアニストのアルトォル・シュナーベルはこう語っている。「私は、音符を操ることに関しては多くのピアニストにかなわない。だが、音符と音符のあいだには間がある――そこに芸術が宿る」


間をおく方法とタイミングは、ビジネス会話の芸術でもあり、カリスマ的な話し手の大半が自然に使いこなしている。間をおくことは、交渉の重要なツールになるだけでなく、あなたと一緒にいる人々が自分自身にいい感情を抱くように導く。つまり、間をうまく使えば、相手にその人自身が知的で、おもしろくて、感動を与えるような人間であると思わせることができる。


誰かが話しているときは、まず表情で返事をする。相手の言葉を自分の中に吸収していて、素晴らしい発言にふさわしい関心を払っていることを、表情で伝えるのだ。それができたら、2秒の間をおいてから答える。つまり、相手が話し終えたら、あなたは吸収しているという表情で返事をして、2秒おいてから言葉で返事をする。


もちろん、簡単にはできない。自信がなければ沈黙に耐えられない。あなははぎこちなさを感じるだろうし、この2秒間に相手が何を考えているのかわからないという不安にも襲われる。ただし、耐える価値のある2秒間だ。私のクライアントも、このシンプルなテクニックが大きな変化をもたらしたと語る。相手がよりリラックスして、理解されているのだと感じていることがわかり、さらに心を開いてくれるのだという。たった2秒の我慢で、大きな見返りではないか。


人の話を聞くスキルは、カリスマの基礎であるプレゼンスを高め、あらゆるスタイルのカリスマを高める。言い換えれば、コミュニケーションにおけるプレゼンスだ。