第1962冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール [単行本] ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・イェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール


フィードバックを定着させる


ケイティは最近、彼女の学校の求人に応募してきた人との面接で、示唆に富むやりとりを体験した。その志願者(ジリアンと呼ぶ)は2年程度の経験を積んだ若い教師で、模擬授業をすることになっていた。数日前にケイティに授業計画を提出していたが、意図はわかるもののまとまりに欠け、乱雑だった。簡単にすませられるところを複数にしていて、重要な手順がいくつか欠けていて、些末なところに無駄な時間をかけ、ところどころ教育評論家のことばを熱心に引用していた。とくに驚くようなことではない。私たちは、やる気のある賢明な人材を雇って職場で育成するのは当然だと思っているし、志願者がフィードバックにどう反応し、それをどう利用するのかを見きわめられる人材採用プロセスの設計に努めている。


ケイティはジリアンと20分くらい話し、模擬授業の内容を見直して、よりよいものにしてほしいと説得した。翌日、ジリアンは授業計画を再提出した。「提案されたところはすべて変更しました」とケイティ宛ての感じのいいメモまで添えられていたが、ほとんど何も変わっていなかった。口ではイエスと言ったのに、行動はノーと言っていた。ケイティは高校教師だったときに同じ気持ちを味わったことを思い出した。作文について、ある生徒に細かいフィードバックを与えたところ、ほとんど前回の丸写しで、ただ丁寧に書き写しただけの「改訂版」を出してきたのだ。その生徒も「先生の提案はすべて取り入れました」と言っていた。


人は「フィードバックを取り入れました」と言いながら、蓋を開けてみると、とんでもないこと――ときには何もしないより心配なこと――をやってしまうものだ。では、どうすればこちらが言ったことを本当に聞き入れてもらえるのだろう。これから紹介する3つのツールは、受け手が言われたことを理解しているか、正しく解釈しているかを確かめるのに役立つ。このツールによって、フィードバックを「固定する」ことができる。


固定ツール1――フィードバックを要約する
フィードバックを与えたあと、それを固定するもっとも簡単な方法のひとつは、要約した内容を言ってもらうことだ。相手があなたの頭にあるのと同じようなことを聞いたかどうか、すぐにわかる。


フィードバックが複雑になり、肯定と否定の両方の内容が含まれている場合には、「要約」がとりわけ重要になりうる。そこで混乱が生じやすいからだ――強みを含め、同時に弱みに見える点を指摘しても、人が覚えているのは褒められたことだけだ。


マネジャーのジャスティンの例をあげる。ジャスティンは、チームの仲間がひとりのメンバーに対して、尊敬はするけれどもいっしょに働きたくないと思っていて、そのことがチーム全体の士気や結果に影響していることい気づいている。問題のメンバーをカーラと呼ぼう。ジャスティンは、カーラの徹底した現実主義と、職務を果たしたいという強い気持ちを評価しているが、その激しさがときに批判の押しつけがましい態度となって表れ、結果として仲間にうとまれていることを、本人に理解させたい。話の途中で微笑んだり、声をあげて笑ったりするとか、少し人の話に耳を傾ければ、多くの価値が生まれ、カーラももっと仕事ができて、感謝され、いっそう成果が上がるのだ。


そこでジャスティンは打ち合わせの機会を持つことにする。月次の予算についてふたりで話し合い、その機会を利用して、カーラに人間味のある側面を見せる練習をしてもらう。前向きな態度を崩さず、次のように言う。「あなたの仕事ぶりですばらしいのは、チームに厳しさをもたらしていること。本当に評価しています。人間味のあるところを見せれば、もっとそのよさが生きると思う。たとえば、あなたのお子さんに見せるような温かさをね。じゃあ予算について話し合いましょうか。練習も兼ねて、私のことを同僚だと思ってくれる? 私の話を聞いているときのは、いま言った温かみを見せて。それから私の意見が正しいと思ったら、それをはっきり示してみて」。


ジャスティンのフィードバックを少し冷静に見てみよう。ほとんどのフィードバックと同じように(私たちのフィードバックもたいていそうだ)欠点がある。ジャスティンはあまりすばらしいとは言えなかった。カーラには同僚のほうに問題があるように聞こえてしまった可能性がある(「彼らにはカーラの人間味のある側面が見えていない」と)。もしそうだったとすると、予算について話ながらカーラが温かみを出す「練習」をしていることになっていても、本当はうまくいっていない。無理に笑顔をひとつふたつ作るかもしれないが、結局カーラにとって、その打ち合わせは予算のためなのだ。だからジャスティンは話を中断する。


「カーラ、いま予算の話をしていて、それがはかどっているのはわかっています。でも、あなたなら予算の打ち合わせなんて楽々こなせる。最初の会話で私が言ったことをくり返せる? あなたはこの打ち合わせのゴールをどう要約する?」。


ここでジャスティンが持ち出したのが〈聞き返し〉というテクニックで、フィードバックを受けた人が何を聞いたか質問するものだ。理解できているかどうかを確認する。昔ながらのやり方である実行できない(または実行したくない!)のか、それともフィードバックをそもそも理解していないのかがわかる。いずれにしろ、〈聞き返し〉は役に立つ。カーラの能力や意志の問題なら、優先事項を要約することによって責任感が湧くだろうし、フィードバックを理解していないことが問題なら、もう一度与えることで、明確な目的なしに練習しつづける時間の無駄が省ける。ジャスティンはまた、フィードバックがどのように受け取られたか聞くことによって、その効果も確かめられる。


言ったことをくり返すよう求めると、人によっては見下されている気分になることがある。このツールは後輩には遠慮なく使えるかもしれないが、チームで何かを練習しているときにはどうだろう。その場合、もっと穏やかな中立的な尋ね方をすればいい。たとえば、「お互い理解しているか、ちょっと確認してみましょうか」。