第1367冊目 総理への宿命 小泉進次郎 (一般書) [単行本] 大下英治 (著)



進次郎の演説を他の誰よりも聞くことによって気付いたことがある。


現職議員として、進次郎は、自衛隊の行事での格調高い講演から、お母さん、子どもたちに向けて話すやわらかい演説まで、幅広くこなすのだが、地元での演説は、父親・純一郎から引き継いでおり、何らかの具体的なエピソードを盛り込んで、聴衆をうなずかせる。


たとえば、学童保育の場であれば、「学童保育とは何ぞや」と正当論だけを話して終わる政治家が多いが、進次郎は違う。そこに、体験談を付け加える。「わたしも学童保育の現場に、実際行ってみたんですが、そこでこういった子に会いましてね」と、目に浮かぶエピソードを披露したり、主催者に対してお世話になった話などを紹介する。


これには、ふたつの意味が込められていることをよこくめは分析した。


一つは、よこくめが横須賀い縁もゆかりもないため、よこくめとは違って長年、横須賀で活動しているというアピール。そして、もう一つは、聴衆の共感を求めることだ。


あるとき、進次郎が、自身も自衛隊体験入隊したエピソードを話したことがある。


「わたしも、苦しい思いをしたことがあるんですよ」


さすがに、進次郎に具体的なエピソードを伝えられると、よこくめは萎えた。


〈かなわないな……。わたしには具体的なエピソードがないしな……〉


しかし、そんな経験が糧となり、よこくめは自分の演説を上達させるコツを掴んだ。


メディアの寵児として国民から絶大な支持を得ていた小泉純一郎の素質を受け継ぎ、同じくメディアの寵児として国民の高い人気を維持し続けている進次郎だが、普段の進次郎は気取ったところがない。


イベント会場で進次郎とよこくめがあいさつする前など、普通に、進次郎は声をかけてくる。


民主党が党内でもめていたときには「民主党、大変ですね」と言われたり、成人式の式典では、進次郎の成人式の思い出話を教えてくれたりした。


よこくめがつけていたリボンが風に吹き飛ばされ、飛んでいったときには、すぐに進次郎が拾ってくれたりもした。


体育会系出身ということで、礼儀もしっかり身についている。


まだ、進次郎と接することがなかったときには、小泉家の四世ということで良いイメージはなかったが、接すれば接するほどいい人過ぎて、よこくめは進次郎を憎めず、〈二期目も進次郎と戦うぞ〉と思いながらも、戦いづらいと感じていた。