第1275冊目 THE 21 (ざ・にじゅういち) 2013年 09月号 [雑誌] [雑誌]
THE 21 (ざ・にじゅういち) 2013年 09月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2013/08/10
- メディア: 雑誌
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量より質の追求が成果を生む (株)ユーグレナ代表取締役社長 出雲充
世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功し。事業化。ベンチャー起業家として類いまれな成功をおさめた出雲充氏だが、誰もが興味を惹かれるその成功の秘訣は、特別な方法ではなく、「誰にでも実践できること」だった。
一発必中を狙わず試行回数を増やす
私は新卒で入社した銀行を一年で辞め、起業のために動き出しました。ミドリムシの培養について研究を進めながら、ビジネス化の準備のために走り出したのです。
サラリーマンを辞めて起業に取り組むことによって、大きく生活が変化したかというと、少なくとも自分ではそんな実感はありませんでした。それは、非常に良いかたちで事業をスタートさせてもらったせいもあるかもしれません。
二〇〇五年八月に(株)ユーグレナを設立したときには、(株)ライブドア社長(当時)堀江貴文さんが、六本木ヒルズにあった同社のオフィスを間借りさせてくれました。それだけではなく、デスクや椅子、コピー機や電話など、必要なものをひと通り無償え拝借できたのです。
おかげで、この時期のユーグレナに障害らしい障害はなかったように思います。
もちろん、この間、なかなか思うような結果が出なかったこともあります。
たとえば、ミドリムシを培養するプールの確保です。
大量のミドリムシを培養するためには、そのための大きなプールが必要です。自前のプールを用意するわけにはいかないので、微生物の培養をしている企業に「プールを貸してください」とお願いして回るのですが、そう簡単に「イエス」とは言ってもらえません。
微生物の培養はとてもデリケートで、ある微生物を培養しているところに、それを餌をする微生物がほんの少し混入しただけで、大事に育ててきたものが一晩で全滅するということもあります。ミドリムシという、訳のわからないものを引き受けてくれる会社はなかなか現れないのが当然でした。
この難関を私がどうやって突破したかというと、特別なことは何もしていません。プールを持っている企業さんを何度も訪問してお願いしただけです。最終的にプールを貸してくださった石垣島の八重山殖産(株)だけでも、月一回のペースで十回近く通い詰めました。
研究者の方にミドリムシの培養について協力していただくときも、製品ができてからの営業にしても同じことです。これはと思った相手のもとに、断られても通い詰めてお願いしただけです。
こう言ってしまうと話としては面白くないかもしれませんが、ユーグレナがうまくいったのは、要するに、試行回数が多かったからです。トライする回数が多いから良い結果が出た、というだけなのです。
私がいつも不思議に思うのは、一回やってみて思うような結果が出なかっただけで失敗とみなしてしまう。一発必中思考の人が多いことです。
たとえば、「プールを貸してください」と頼んで断られたら、永遠に貸してもらえない、と思ってシュンとしてしまう。私のように、もう一回、さらにもう一回、とお願いしに行く人はあまりいないようです。
もちろん、断られた相手おところにまた頼みに行けば、「ダメと言ったでしょう。なぜまた来たんですか?」と、ほとんどの場合は言われます。けれども、だから以一回で諦めるという発想は、私はありません。
人間の意志決定は、そのときの体調や天候、前日にあったことなどに簡単に左右されるものです。
断った相手は、前の日に奥さんとケンカしてイライラしていたのかもしれない。体調が悪くて、一刻も早く帰りたいと思いながら、私とのアポに無理をしてつき合ってくれていたのかもしれない。
だとすれば、別の日には、同じ相手からまったく違う答えが返ってくる可能性もある。次にお願いするときには、たまたま天気が良くて上機嫌かもしれない。たまたま前日に孫が生まれて、地球の未来について深く考えているかもしれない。
つまり、どんな答えが返ってくるかは状況次第。成果が出るかどうかはこちらでコントロールできることではありません。一発必中などあり得ないのです。