第1272冊目 FBI式 人の心を操る技術 (メディアファクトリー新書) [新書] ジャニーン・ドライヴァー (著), 高橋結花 (翻訳)


FBI式 人の心を操る技術 (メディアファクトリー新書)

FBI式 人の心を操る技術 (メディアファクトリー新書)


ヘソは雄弁である


ヘソの法則は1930年代、W・T・ジェームズによる研究で発見された。彼が行ったのは、回答者に一連の写真を見せて、あらゆるポーズに当てはまる心境を、350の選択肢のなかから選ばせる実験。その結果、ヘソの向きが興味のレベルを示すカギを握っていることを、ジェームズは突き止めた。


彼はヘソの向きが「興味」「無関心」「興味の強まり、信頼」「緊張、興味のわずかな減退」の4種の感情を表すと分析した。30年後、アルバート・メラビアン博士はジェームズの研究をさらに進化させ、ヘソの向きがその人物の意思を読み解く際の、最も大切な要素だと記した。以来あまたの科学者が、これらの先行研究を立証してきたのである。


ヘソは私たちの気分を映し出し、心情を露呈させてしまう。ヘソを突然、扉ら出口に向けたり、会話の相手から逸らせれば、「この会話を終わらせたい、もうこの場にいたくない」と無意識にシグナルを送ったことになる。しかし多くの人はこの法則の威力を知らず、ヘソが自分の本音をバラしているとは思いもよらない。したがって、あなたがヘソの法則を使いこなせるようになれば、相手の心を読む正確さは飛躍的に伸びるというわけである。


ヘソの法則はビジネスシーンできわめて役に立つ。経営者を手前にした社内会議だ。そこでは経営戦略についての白熱した議論が交わされている。売り上げ高が話題になっている最中、突然一人の女性従業員がヘソの向きを変えた。「注目ポイント」である。何か思ったが隠しているのか、意見に反対なのか、あるいは興味がないのか――彼女の動きはこうした、なんらかの意味があるはずだ。経営者たるもの、ここに気がつかなければ。


ヘソの法則は、自分のリーダーシップに対する相手の忠誠心や尊敬を測るのにも役立つ。ヘソが顔とはまるで異なるメッセージを発しているのがわかるだろう。ヘソを経営者のほうへ向けている出席者がいる一方、指で顔の前で三角形を作っている、正面の席の女性へ向けいてる者ものいる。顔は全員経営者へ向いていたとしても、一部の人間の関心や忠誠心は別の人物へ向いている現実が表れているのだ。経営者の正面の女性マネージャーにヘソを向けたメンバーが多いということは、彼女こそがこのグループの本物のリーダーなのかもしれない。そこで女性のヘソに注目すると、まっすぐ男性のほうへ向いている。少し前のめりになった姿勢に、対決の意志が表れている。一方、経営者は椅子の背にもたれ、ヘソが上を向いている。この会議に対する興味を欠いている証拠だ。


ヘソの法則を使えば、相手に気づかれないまま、その心境を読み取り、調子を合わせることができる。この、効果的で実践しやすい方法で、あなたは自分の第一印象の土台を作ることができるのだ。いままでも知らずに使ってきたはずのヘソの法則を、これからは有効活用しよう。ヘソの向きを変えるだけで、相手の気持ちがどれだけ操れるか、いくつかの例を見てみよう。


ビル・クリントン元大統領は、一緒にいる相手を気持ちよくくつろがせ、心を開かせる名人として有名だ。会って間もない初めての相手でも、それが可能だという。どうやったらそんなことができるのか? カギはすべて出だしになる。


たとええそれが彼のと握手を待つ行列に並んでいた一般人であっても、クリントンは初めて会った相手には必ずヘソの法則に従って接する。


ノルウェーの政治家スヴェイン・ルードヴィーグセンと握手を交わすクリントンは、ヘソをまっすぐ相手に向けている。元大統領のいつものやり方だ。自分のヘソを握手の相手にまっすぐ向け、丁寧に握手し、温かい微笑みを浮かべる。そしてここからが彼の真骨頂――クリントンは握手した相手の手を離し、次の相手へ向こうとしながら、目線だけはほんの1秒、前の握手の相手に残すのだ。まるで「名残惜しい」と訴えるかのように。


面白いことに、妻のヒラリー・クリントン国務長官はそれとほど正反対の手法をとっている。


いかにもヒラリーらしい握手である。ヘソが両側のどちらの人々のほうへも向いていない点に注目してほしい。ただ近くを通り過ぎているだけで、視線すら合わせていないように見える。この写真に限らず、彼女は大勢の人々が待っている場合、右手でごく軽く相手の手に触れながら、左手でも別の人と握手をしていることが多い。


こうして夫婦の仕草を見比べ、それぞれの人柄に対する評判を思い出してみると、自分の仕草をどう変えたいか、あなた自信の方向性も見えてくるだろう。ヘソを向き合わせながら温かな握手で、友好関係が生まれるスピードは天文学的に速くなる。一方、ヘソをそっぽへ向けた心のこもらない握手は、冷たい態度をとるのと同じ。