第1262冊目 FBI式 人の心を操る技術 (メディアファクトリー新書) [新書] ジャニーン・ドライヴァー (著), 高橋結花 (翻訳)


FBI式 人の心を操る技術 (メディアファクトリー新書)

FBI式 人の心を操る技術 (メディアファクトリー新書)


最強の仕草・とんがり屋根


ドラマ『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』で部下を叱りつけるトニー・トプラノの姿は印象的だった。常に指先を顔の前で三角形に合わせ「とんがり屋根」を作っている。これは、相手の深層心理に「自分はなんでも知っている、すべてお見通しだ」と知らせるのにうってつけの仕草なのだ。自信を伝える他のボディランゲージや言葉と、このジェスチャーを組み合わせれば、絶対的な信念や確信を強烈にアピールできる。


いままでのあなたは、このジェスチャーが意味することを知らず、不用意に指先を合わせていたかもしれない。しかしあらためて観察すれば、「とんがり屋根」のポーズが、会議や交渉の場、あるいはいちかばちかの勝負の場面で、どれだけ絶大な効果を発揮するかを実感するだろう。


「とんがり屋根」を見せるいちばんのタイミングは、自分の語りが大事な部分に差しかかったときだ。言葉に力を与えてくれる。このポーズをやたらと作ったり、的外れなタイミングで見せる人間は知ったかぶり、あるいはエゴイストと見られがちだ。しかし正しく利用すれば、大きなインパクトを与えられる強烈なジェスチャーであることは間違いない。しかもそのインパクトが届くのは他者だけとは限らない。とんがり屋根を作っている自分自身にも大きな自信を与えてくれる。


数年前、私が頼まれた講演に両親が来た。社交的な母は、講演中ずっと最前列に陣取り、私が聴衆から実験台を募るたびに元気よく応じていた。一方、引っ込み思案の父は途中5分間ほど、ふらりと覗きい来ただけ。だから私は、父の講演の内容など一つも聞いていないと思っていた。


1年後、父は法廷で証言しなければならなくなった。このうえなく勤勉で、みずからを省みてなんら恥じるところのない人物。内気な消防署の整備工で、生涯二つの職業をかけもちして働いていた。週末には芝生を刈り、庭仕事にいそしむ。ハーバード大学のエリートではないので、年収もさいて多くない……そんな父は、出廷が2、3ヵ月後に迫った頃から不安を見せ始めたという。偉そうな弁護士や陪審員、裁判官の前で証言することを考えると、落ち着かなくなったらしい。母から電話でそう聞いたものの、私にしてあげられることはなかった。


しかし出廷後、私が実家に立ち寄ったとき、父は思い切り私を抱きしめて言った。「信じられないと思うが、昨日私が法廷で(大袈裟に間を置いて)なんと3時間(さらに間を置いて)20分も証言したんだ!」


父はきついボストンなまりで続けた。


「そのあいだ、ずっとこうしていたんだ」父は私に指先を合わせ「とんがり屋根」を作ってみせた。私は大笑いした。


「とんがり屋根とかいうんだろ、ジェニーン? 自信と威厳を醸し出せるんだってな」


「そうよ、お父さん」


「弁護士の連中、お株を奪われて、どうしたらいいかわからなくなってた」


父が私の講演から学んだのは、ただ単に「とんがり屋根」を作ることではない。パワーや法廷に居合わせていれば、父の声や姿勢、話す文章の組み立て方、頭の位置が、「とんがり屋根」を作り続けているうちに変化していくのを、私も目の当たりいできただろう。


「とんがり屋根」がパワーを示すと信じたことで、父はパワーを発揮できたのだ。