第1257冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール [単行本] ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・イェッツイ (著)

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール


できているかどうか観察する


あるスキルを練習したあとには、本番中に現れるスキルを観察し、フィードバックを与えなければならない。フィードバックのループを短くする、フィードバックを使って練習す、フィードバックの「ポジティブな力」を使う、フィードバックを理解しているか確認する――第4章のフィードバックのルールは、練習中と同じく、本番で与えるフィードバックにも当てはまる。「正しいことを探す」とは、練習後の本番中の観察とフィードバックに関することだ。簡単に言えば、何かをやりとげたければ測定が必要で、もっとも簡単な測定方法は「観察する」ことなのだ。


営業部長は営業担当者に、特定のスキルにもとづくセールストークを練習させるかもしれない(ルール10)。ライバル会社と比較して自社製品をはっきりと説明することや、信念を持ってプレゼンテーションを締めくくるといったことだ。営業部長は話し方について担当者にフィードバックを与え、統合させる(ルール23)。しかし、そこで終わってはいけない。練習のあとの本番で、担当者が本物の潜在顧客に話をするときにも、それを観察し、練習で分離したセールストークの各部分についてさらにフィードバックを与えなければならない。「正しいことを探す」のが鍵だ。それで担当者は、いままで練習してきたことが重要なのだとわかる。スキルを使うことを期待されているので、スキルを学び、記憶に焼きつける可能性が高まる。


探すべきことはたくさんある。どこから始めればいいのだろう。いちばん参考になるのは、それまでの練習を振り返ることだ。これを効果的におこなう方法として、練習したスキルをまとめた観察用ツールかテンプレートを作っておくといい。それによって、リーダーも実演者も本番中に何に集中すべきかがわかる。一例をあげると、〈いきなり指名〉というテクニックがある。ロースクール(そして成功している小・中・高等学校)で盛んに使われる指導方法で、生徒が挙手していてもいなくても教師が発言を求めるものだ。その〈いきなり指名〉に関し、私たちの知るある学校は、そのなかの具体的なスキルの観察を、練習後のフォローアップとして授業中におこなう。観察は細かい点、たとえば、生徒の名前を言うタイミング(質問のあとかまえか)や、あらかじめ使うことを知らせておくかどうか(知らせておけば生徒は油断しない)、段階的かどうか(質問が簡単なものから始まり、徐々にむずかしくなる関連した質問で構成されているか)などに注目する。このように的を絞って観察すると、教師がこのテクニックを確実に使うだけでなく、リーダーも効果的な使い方について明確なフィードバックを与えることができる。


このアイデアをほかの状況に応用すると、本番中に使ってもらいたい具体的なスキルを並べた「チェックリスト」を作ることができる。それをまず練習で使い(たとえば、ワイル・コーネル医科大学の「SPE(患者の標準診察)のなかの患者のチェックリストのように)、練習のあとは、本番でしようしたスキルの具体的な観察と評価にも使う。そうしてデータを積み重ねれば、もっと練習が必要なスキルを知る手がかりにもなる。


練習のあとで、的を絞って整理した観察をおこなうと、初歩の部分からすばやく、効率的に抜け出すことができ、最終的には行動の持続的な変化につながる。私たちのワークショップでは、〈いきなり指名〉のテクニックについて、教室で使うまえに教師に練習してもらうだけでなく、スクールリーダーにも「観察する」練習をしてもらう。教師が〈いきなり指名〉を使っているビデオをリーダーたちに見せ、リーダーたちは、必要なスキルをリスト化したテンプレートを参照しながら、観察する。これによって、このテクニックの細かな点を識別する練習ができる。練習のあとでスキルを定着させるために、使う本人が練習するのは当然として、リーダーも、定着させたい主要なスキルの観察方法を練習すべきである。


この整理された観察方法を本人にあらかじめ伝えておくことによって、もう一段階、強力にすることができる。こんなふうに伝えてみよう。「今日の授業(プレー/手術/演奏)を観察させてもらいます。集中していない生徒の行動をどんなふうに指導するか(ボールをしっかり体の正面で受けるか/傷口を正しく縫合するか/はっきりと正確に音階を演奏できるか)、注意して見るつもりです」。観察が予測できることから、彼らは進んで目標に向かうことができる。何を見られるかわかっているので、観察者がただいるというだけで、責任を持って取り組む。もはや新しいテクニックを試しなさいと念を押す必要はない――責任をとるメカニズムがないときに実行を求めるのは不誠実だ。「観察」という行為によって、本番中に練習の成果を探されることが誠実かつオープンに知らされる。


アンコモン・スクールズのもっともすぐれた学校では、観察のプロセスは次のようになる。まず。授業の参観は校長の職務なので、教師は全員、練習しているテクニックを観察するために校長が一定の間隔で教室に来ることを知っている。校長は先述した観察用のツールを使うか、たんに、練習したスキルを確認するため2週間以内に授業を見学させてもらうと伝える。チェックリストを使うことはあまりないが、とにかくそうして教師は取り組むべきことを事前に知らされる。以上の手順で、教師たちが練習から本番の授業に移ったあとも、個別のスキルについて次々と効率よくフィードバックが与えらていく。教師が練習で学んだことを、責任を持って実行に移す効果もある(前向きな支援を受けながらだ)。また、予測可能なこの手順によって、校長と教師はともに協力して向上するという共通の目的に取り組み、教師たちはさらに本番の授業で練習を積むという、成功への道筋ができる。


マネジャーはあらゆる場所に同時にはいられないし、すべてのすきるをつねに観察することもできにあ。そこで役立つのがビデオだ。自分の行動を見て、正しいことを探し出せる。行動中の姿を撮影すれば、みずから成長する能力をの伸ばすことができる。特定の行動(プレゼンテーション、セールストーク、宣誓証言、数学の授業、大学のゼミ)を5分間撮影し、必要なスキルが実行できたか考えさせる。何を試したか。何が難しかったか。驚いたことはあるか。成功を探すだけではいけない。うまくいかなかったことを探し、支援する方法も考えなければならない。従業員には安心してまちがってもらいたい(ルール31)。本番中に新しいスキルを試しているところをビデオに撮って提出してもらえば、スキルの定着に役立つ。ビデオに撮るとなれば、みな責任を持ってスキルを使うし、むずかしいときにいかにスキルを効果的に使うかといった会話が生まれるからだ。


前章で、練習の文化を創り出すための目標設定と、仲間同士の責任について説明した。その考えを「練習後」にも当てはめれば、選手や職員が設定した目標に添うかたちでの観察が可能になる。練習が終わったあと、練習で何を学んだか、本番でとくにどのスキルを使いたいかということを(書面や打ち合わせで)考えさせる。そのあと本番を観察して、彼らがみずから設定した具体的な目標に集中しているかどうかフィードバックする。それでお互いに責任感を高め、組織の共通の目標に向かって、練習の文化を育てることができる。