第1244冊目 考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則 [単行本] バーバラ ミント (著), Barbara Minto (原著), 山崎 康司 (翻訳), グロービスマネジメントインスティテュート


考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則


ボトムアップで考える


すべての情報をグループごとに要約し、それをトップダウン型で表現するというやり方は、あなたの通常の文書とはまったく逆のものに思えるかもしれません。図表1を見てください。ひとつひとつの箱が伝えたいメッセージを表しているとします。まず最下段のレベルに文章があり、次のレベルでその文章を論理的にグループ化して段落を作ります。次に、それをグループ化して章を作り、章を集めて全体の文書を完成します。頂上に存在するのは、あなたが伝えたいたったひとつの考えだけです。



ものを書くときの実際の作業をみてみると、このボトムアップ型で自分の考えをまとめようとしているとも言えます。ピラミッドの最下部では、伝えたいメッセージごとにそれぞれの文章の段落をくくっているのです。


たとえば、6つの文章をひとつの段落にくくるとします。なぜその6つを選んだのかと言えば、これら6つの文章にひとつの論理的に共通な関係が見出せるからです。共通の関係があれば、それらの文章をひとつの段落にまとめて、その段落で伝えたいひとつのメッセージをひとつの要約文として表現できます。たとえば、財務に関する5つの文章とテニスに関するひとつの文章を一緒にくくったりはしないでしょう。それらの関係性をひとつの要約文で表現することは難しいからです。


要約文にすると、文章レベルからひとつ上の段落レベルに上がります。つまり、段落は、6つの文章の集まりとしてではなく、ひとつのポイントとしてくくり、さらにひとつの考えを表す章のグループを作ります。先ほどのグループ化の1レベル上でのグループ化です。


他の段落ではなく、この3つの段落をひとつの章にくくるのは、それら3つの段落に論理的な共通な関係があるからです。つまり、この関係があるからこそ、段落ごとに3つの考えをひとつにまとめることができ、その章で伝えたいことをひとつのメッセージとして表現できるのです。


各文章をグループ化して段落を作り、さらに各段落をグループ化することで章を作るわけですが、これとまったく同様に、それらの章を集めて文書を完成します。文書に3つの章があるとすると、3つの章をまとめることで全体のひとつのメッセージが表せるのです。


これ以上できなくなるまでグループ化と要約を繰り返すわけですから、すべての文書は、常にただひとつの考えをサポートするようなピラミッド構成になります。これこそが真に伝えようとする主ポイントの妥当性を説明するために存在しているのです。ただし、適切な構成となっていることが前提ですが……。


適切な文書構成かどうかは、それぞれのメッセージの関係が正しいピラミッド型になっているかどうかでチェックします。幸いなことに、これは文書を作成する前にできることです。チェックに必要となる3つの鉄則を列挙します。

  1. どのレベルであれ、メッセージはその下位グループ群を要約するものであること
  2. 各グループ内のメッセージは、常に同じ種類のものであること
  3. 各グループ内のメッセージは、常に論理的に順序づけられていること


それでは、なぜこの3つが「鉄則」であるのかをご説明しましょう。


1.どのレベルであれ、メッセージはその下位グループ群を要約するものであること。考えたり書いたりする上で本当に重要なことは、下位グループで述べたさまざまなメッセージから新しい考えを導き出すことです。先の述べたように、段落のメッセージとはその段落内の文章グループの要約であり、章のメッセージとはその章にある段落グループを要約したものです。


しかし、グループ内の文章や段落からひとつのメッセージを導くには、グループ化が適切に行われていることが前提です。そこで、第2、第3の鉄則が出てきます。


2.各グループ内のメッセージは、常に同じ種類のものであること。メッセージをグループ化してそのひとつ上のレベルの考えを導き出すためには、そのグループ内のメッセージが論理的に同じものであることが必要です。たとえば、りんごとなしを果物というひとつ上のレベルでくくることは論理的におかしくありませんし、テーブルと椅子を家具としてとらえることもできます。しかし、りんごと椅子を同じグループに入れようとしたらどうでしょうか? ひとつ上のレベルでくくるのは無理でしょう。なぜなら、そこでは果物と家具としてしかとらえられないからです。そこで、おっともっと上のレベルにまで上げて「もの」や「無生物」としてそれらをくくることになります。しかしそうなれば、あまりに広いくくり方となるため、論理的なグループ化とは言い難いものとなるでしょう。


グループ化の論理を述べることで自分の考えを表現したいのですから、同一グループ内の考えは同じ論理カテゴリーに分類されなくてはなりません。つまり、もしメッセージのひとつが行動理由についてであるならば、そのグループ内の他のメッセージもまた行動理由についてでなければなりません。もし最初のメッセージがプロセスを構成するひとつのステップであれば、同じグループ内の他のメッセージもまた同一プロセスの1ステップとなる、というわけです。


グループ化をチェックする簡便な方法は、そのグループを、同じ事象を示す名詞でくくれるかどうか確かめてみることです。つまり、あるグループ内のメッセージはすべて、いくつかの提案、いくつかの理由、いくつかの問題、あるいはいくかの変更すべき事柄などのように表現されるはずです。グループ化されるべきメッセージの種類に制約はありませんが、それぞれのグループ内のメッセージは同一の種類であり、同一の名詞で表現されなればなりません。考えのグループ化が正しく行われているかどうかのチェック法については、第Ⅱ部の第6、7章で詳しく説明します。



3.各グループ内のメッセージは、常に論理的に順序づけられていること。なぜ2番目のメッセージは2番目であって、1番目や3番目ではだめなのでしょうか? つまり、メッセージの配列には明確な理由がなければならないのです。配列法については、第6章「ロジックの順序に従う」で詳しく説明しますが、基本的には、論理的な並べ方には4つの方法しかありません。

  • 演繹の順序(大前提、小前提、結論)
  • 時間の順序(1番目、2番目、3番目)
  • 構造の順序(北から南、東から西、等)
  • 比較の順序(1番重要なもの、2番目に重要なもの、等々)


どう順序づけをするかは、どういう分析プロセスを用いてグループ化したかによって決まります。もしあなたが演繹的理由でグループ化したとすれば、メッセージは三段論法的に展開するでしょう。因果関係でグループ化すれば、時間の順序になるでしょう。また、構造ごとのグループ化すればその構造の順序になり、類別によるグループ化であれば重要性による順序になるでしょう。演繹的な理由づけ、因果関係、全体を各部分へ分解すること、そして類別……この4つの作業ことが頭の中でできるすべての分析活動ですから、それによる順序づけもこの4種類しかないのです。


わかりやすい文書を書くキーポイントは、筆をとる前にまず各々のメッセージをピラミッド型に並べてみて、3つの鉄則と照らし合わせてみることです。鉄則がひとつでも破られていれば、それは考え方に欠陥があるか、メッセージが十分に練られていないか、関連づけがまずいということを意味します。これでは読み手にメッセージがうまく伝わらないかもしれません。3つの鉄則を満たすまで、自分の考えをもう一度練り直す必要があります。そうすれば、後になってから膨大な時間をかけて書き直すという無駄な作業を省くことができます。