第1242冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール [単行本] ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・イェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール


分解して手本を示し、くり返す


最近、ケイティは娘のアリザに靴紐の結び方を教えた。まとまった時間をとって娘と腰をおろし、明白な目標を持って、目のまえに靴の片方を置いた。まず結び方の全行程の手本を示した。それから何度か、アリザに説明しながらゆっくりと紐を結び、手を大きく動かして、あいまいなところがないようにした。ケイティはこれがいちばんの教え方だと確信していたので、さっそくアリザにやらせてみた。だが、アリザはどこから始めるのかさえ覚えていなかった。紐の持ち方かえわからなかった――どっちの手? ケイティは手本を一度に示しすぎたことをすぐに気づいた。もっとゆっくりとひとつの動作ごとに分解してやらなくてはならなかったのだ。


そこで紐の持ち方から始め、娘がやるのを見守った。ひとつめの輪の作り方と、それを持つ手を見せた。アリザもまねた。次は大きな輪の作り方。ケイティは何度もやり方を見せた。ここがいちばんむずかしいところだからだ。分解した小さな動作をアリザがこなせるようになるまで、何度も手本を見せた。アリザがまねるときにわかりやすいように、手本の各部分にそれぞれ名前をつけた。そうしていっしょに次に進み、最後に結ぶところまで行けた。アリザが忘れたら、ケイティはまた手本を示し、アリザが理解したら、ケイティは手を引っこめて見守った。やがてアリザはケイティがつけた名前にしたがって紐を結んだ。そしてついに指示なしで靴紐を結べるようになった。


ケイティが最初にやってしまったことは、職場でもしょっちゅう起きている。だが、わからないと進んで認めたケイティの娘とちがって、会社の社員はわからないことを隠すのに躍起になる。教えるほうはプレゼンテーションをしたり、いろいろなプログラムを使ったり、データを分析したりする手本を見せる。新入社員の知性をかいかぶって、さっさと進めることもよくある。そしてたいてい学習者の視点を失い、新人にとって自分の仕事がどんなにむずかしいかを忘れてしまう。過度に手本を示し、そのあとは質問はないかと明るく問いかける。熱心な新人は自分の能力を見せつけようと微笑みながら言う。「いいえ。よくわかりました。これはいつまでに送ればいいでしょう」。新人はその場を去り、たちまち大汗をかいて、まずやるべきことはなんだったか思い出そうとするのだ。


第2章で、学習者が一度にひとつのスキルに集中できるように、教えるスキルを分離し、管理できる大きさに分けることを説明した。ここでもそれが当てはまる。複雑すぎるスキルを、早すぎるタイミングで教えないようにするのだ。ケイティの娘は、靴紐を結ぶための小さなスキルをすべてこなせるかもしれないが、細部をモデル化して最初から手本ではっきり見せないと、スキル同士のつながりと順序は頭に入らない。


スキルやテクニックの細部をモデル化するのには時間がかかるが、練習や本番を成功に導き、新人が新しいスキルを学ぶ時間を短縮できる点で、多大な利益がある。学習者が新しいスキルの練習に苦労していたら、さらに成功できるところまで細かく分けて、手本を示す。それができるようになったら、要素を増やしていけばいい。


私たちが細部をモデル化する方法に〈コピーキャット(ものまえ〉ゲームというのがある。授業、会議の運営、プレゼンテーションといった、ひとつのパフォーマンスをチームで協力して手がけるときに、この形式が活用できる。まず熟練者が手本を示し、新人がそれ試してみる。新人がうまくできるまで何度もくり返す。熟練者は手本を見せるたびに、ちがった面に焦点を当てて、練習の調整方法を新人にアドバイスする。その場で少しずつ手本を見せるこの方法は成功しやすい。小さい部分ごとに手本を示すというだけでなく、手本を見ながらすぐに練習できるからだ。