第1098冊目  (文庫)ビジネスで差がつくマナーの心得 (サンマーク文庫) [文庫]三枝理枝子 (著)

(文庫)ビジネスで差がつくマナーの心得 (サンマーク文庫)

(文庫)ビジネスで差がつくマナーの心得 (サンマーク文庫)

ミスをなくすためにもくどいくらいの復唱を


メールは相手が都合のいいときに読むことができますが、電話ではそうはいきません。相手の都合を考慮しないと、その人の大事な時間を奪ってしまうことになります。それだけに、ビジネスにおいて電話をかけるという行為は、相手の身になって考えることが必要になります。


そのためにも、まずは電話をかける際の基本を押さえておきましょう。


まず、電話をかけるときは始業後すぐや就業間近、お昼休みなどの時間帯は避けてください。これも思いやりの一つです。


電話がつながったら、ゆっくりはっきりと聞き取りやすいように、会社名と名前をフルネームで名乗り、日ごろのお礼を述べます。そして、取り次いでほしい相手の部署と名前を伝えます。


相手が出たらもう一度名を名乗り、あいさつして、「今、お時間よろしいでしょうか」とうかがってください。


用件は結論から簡潔に話しましょう。また、間違えやすい人名、数字には十分きをつけ、復唱しましょう。たとえば、「午後二時に」であれば、復唱するときは「一四時でございますね」と確認します。これを怠ると後々トラブルの原因となります。


話し終わったら、あいさつをして静かに電話を切ります。通常、かけたほうから切ることになっていますが、相手が目上の人だったり、取引をしてもらう側であれば、相手が切ったのを確認してから切ります。


ところで、もし相手が不在だったなら、あなたはどうしますか?


そういった場合には、基本的にはこちらからかけ直します。相手の戻る時間を確認して、かけ直すことを伝えましょう。


一方、折り返しかけてもらうときは、「それでは恐れ入りますが、お戻りになりましたらお電話いただけますでしょうか。連絡先は……」と連絡先を伝えます。相手が目上の方や、取引をお願いする立場でしたら、自分がかけ直すべきですので、折り返しかけてもらうことはお願いしないでください。


簡単な用事でしたら、伝言を頼むこともあるでしょう。相手がメモを取ることを考慮してゆっくりと、はっきりと、簡潔に内容を伝えてください。「ここまではよろしいでしょうか」といったように相手を気づかいながら伝えましょう。


そして最後に名前をもう一度名乗り、電話を切ります。


これは営業の仕事をしている友人の話です。


あるとき、取引先の担当者であるA氏に電話をかけました。しかし、A氏はあいにく不在とのことで、戻る時間もわかりませんでした。


彼は「さようでございますか。それでは、こちらからまたご連絡いたします」と電話を切りました。


その後もう一度、電話をしましたが、まだ戻ってきていないとのこと。


「どうしたものか……」


実はその日のうちに届けることになっていた商品が納入できなくなってしまったため、そのお詫びをしようとしていたのです。


友人は、伝言や折り返しの電話をお願いしようかと考えましたが、謝罪の電話なので、それも失礼かと思い、またこちらから電話することにしました。


三回目の電話のとき、またしても不在だったので、今度ばかりは「恐れ入りますが、A様が会社にお戻りになりましたらお電話いただけるよう、お伝え願えますでしょうか?」とお願いをしたそうです。電話対応してくださった方が快く引き受けてくださったので、友人は一安心し、自分の連絡先を伝えてA氏から電話がかかってくるのを待つことにしました。


ところが、待てども待てどもA氏からは一向に電話がかかってきません。ついに先方の終業時間まで待っても電話はかかってこなかったそうです。


「一八時を過ぎても電話が来ないということは、今日は会社に戻られないのだ」


彼はそう判断し、自分の退社してしまいました。


しかし、翌日、出社すると朝一番で電話が鳴りました。A氏からの電話でした。


「いったいどうなっているんですか。約束は昨日でしたよね。二〇時に会社に戻り、お宅の商品を受け取って、その足でお客様のところにお待ちしようとしたのに、届いていないとはどういうことですか。おかげで大恥をかきました。お願いした商品はもうけっこうです」


そうまくしたてられ、一言も弁解する余地なく電話を切られてしまいました。


そうです。先方の営業時間は一八時まででしたが、A氏は二〇時に会社に戻り、その日届くはずであった商品は納入されるのを待っていたのです。


「今日は戻らない、明日で大丈夫だ」という思い込みが大きなトラブルを引き起こしてしまったのです。


彼の失敗は電話対応してくださった方への伝え方にありました。緊急を要するときは、取り次ぎの人に「○○の件でお話がございまして……」と概要を伝えるべきでした。そうすれば、相手も緊急性を理解し、A氏へ急いで連絡を取ってくれたかもしれません。


直接話したかった気持ちはよくわかりますが、自分勝手な判断で出入り禁止になってしまっては取り返しがつかないでしょう。


電話は便利ですが、相手の顔が見えないだけに、コミュニケーションをうまく取らなければトラブルになりかねません。簡潔に伝えるべきことは伝え、お願いするときはお願いする、確認の際はしつこいくらい復唱してトラブルを防ぐ、下手な遠慮は禁物です。