第1066冊目 武器としての交渉思考 (星海社新書) [新書]瀧本 哲史 (著)
- 作者: 瀧本哲史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/06/26
- メディア: 新書
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口だけの賞賛は必ずバレる
相手の重要感を満たしてあげることが実際の交渉の結果を左右する――そういったことは本当によくあります。
某大手IT企業が、ある分野でとてもうまくいっている会社を買収しようとしました。ところがそのIT企業は社長がケチで、すごく安い値段で買収相手を買い叩くことで有名でした。
その買収交渉でも、いざ始まってみたものの、売り手側・買い手側、両者の考える価格の差があまりにも大きく、話し合いは平行線をたどったまま決裂寸前となっていました。
しかし、ある出来事がきっかけで、話は急にまとまります。
買収の対象となっていた会社は地方にありました。そのため、売り手の社長は出張で東京に出てきており、買収側が用意したホテルに宿泊することになっていました。
その社長は、平行線のまま終わった交渉のあとで、ホテルに戻りました。そして部屋に備え付けの冷蔵庫を開けてみたところ、彼が好んでいた清涼飲料水のボトルが冷蔵庫いっぱいに入れられていたのです。
それを見て彼は「この話に乗ろう」と決めたそうです。
客観的には「ちょっと安すぎるのではないか」という条件だったのですが、結局その清涼飲料水が気配りが功を奏して、合意にいたることになりました。
これは、買収側の担当者が、事前に交渉相手の社長の飲み物の好みを把握していたからできたことです。
このように、交渉相手の趣味嗜好などを把握しておいて、それを満たしてあげることで「この人は自分のことを重要だと思ってくれている」と印象づけることができます。
少しいやらしいテクニックに聞こえてしまうかもしれませんが、どうしても交渉を前に進めたいときには、とても有効な手法でしょう。
みなさんも、好きな異性が「これが好き」と言ったら、ちゃんと覚えておいて、折に触れてプレゼントしたりするのではないでしょうか? それは、なんとか自分のことを好きになってもらうためというより、相手の喜ぶ顔がみたいからということが多いはずです。
それを同じ気持ちを交渉相手に対しても持てるように意識してみるだけでも、結果は違ってくるでしょう。
自分に対して尊敬の念をもって接しているかどうか、交渉相手は瞬時に見抜きます。それは、人間が本心で考えていることは必ず何かしらの形で外に出るからです。
人間は言語的なメッセージよりも「非言語的なメッセージ」のほうに、より敏感に反応します。いくら言葉で「ぜひお願いします!」「すごくいいですね」「天才じゃないですか!?」などと言っても、本心からそう思っていないと、相手には必ず「こいつは腹では違うことを考えているに違いない」「テクニックで言っているな」とバレます。
表面的な態度や口に出して話される言葉よりも、顔の表情や声のトーンや立ち居振る舞いなどが雄弁に本心を語るということはよくあることです。
自分が重要に扱われているかどうかに関してセンシティブである人ほど、そういう態度には敏感です。「口ではうまいことをいっているけど、こっちを騙そうとしているな」と思われかねません。
ですから交渉では、口で相手をうまく言いくるめるのではなくて、非言語的なメッセージで相手に何を伝えるのか、を意識したほうがいいでしょう。