第1051冊目  ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫 [文庫]G.キングスレイ ウォード (著), G.Kingsley Ward (著), 城山 三郎 (翻訳)

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫

自分の財布の管理も計画的に


多く人が最初に犯す間違いは、給与を所得税を差し引くまえの総額で考えることである。まず、税引き前の給与はさっぱりと忘れて、税引き後の手取りの給与に意識を集中するように。月づきの必要経費を書きだして、手取りの月給から差し引けば、その残りは自由に使える収入と考えられる。この残差の扱い方は二つある。全額を使うこともできるし、一部を蓄えることもできる。ふつう、毎月決まっている経費、家賃や住宅ローンの返済、光熱費、食費などは、速やかに支払いを済ませるように。めんどうに巻き込まれるのは、たいてい、これらの基本的な必要経費以外の支出面である。

現代の便利な制度のひとつが、多くの人びとによって、事実上、呪いになってしまっている。クレジット・カードである。これは衝動買いの主な要因で、消費過剰と呼ばれるこの病気には誰もがときどきかかり、人によってはその回数があまりにも多い。小売業者は情容赦なくこの衝動的な買物によって商売をする。「主なクレジット・カードはみな使えます」と、私たちが消費過剰になるまで、使え、使えと迫るのである。

その週のうちに使ってもいい現金だけ持ち歩くことも、消費過剰を防ぐ手近な方法である。使うたびに金が目のまえで消えていくのを見れば、使い過ぎるまためらうだろう。「後で支払う」小さな伝票に何気なく著名するよりも、その場で勘定を済ませるほうが、常識が働く。週単位ではほかの用途に割り当てた金は、この小さなプラスチックのカードがポケットに入っていなければ、ずっと長持ちするだろう。試しに一ヵ月間、すべてのクレジット・カードをしまっておいて、現金だけで取引きをしてみてはどうか。現金払いで遊び、現金があるうちだけ買物をするというのも悪くない。今日の社会の、人をいつのまにか破滅に追い込むクレジット・カード制度にくらべて、自己破産の度合いがはるかに低いことは確かである。