第1038冊目  FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学 ジョー・ナヴァロ、トニ・シアラ・ポインター、 西田 美緒子 (2011/1/14)

FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学

FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学


第一印象のアピールと従業員の仕事ぶり


割れ窓理論が功を奏してしまい、職場の劣悪な環境が従業員のできの悪い行動を助長している例は、あまりにも多い。ただプロ意識にそぐわない服装をしているだけで、プロらしくない行動がうまれていくのだから、職場環境の細部に心配りが足りなければ、やがては従業員の態度と行動に影響していく。私は、宿泊するホテルで壁紙が破れていたり幅木がめくれていたりするのを見ると、ここではサービスも不足するだろうと覚悟する。支配人がこうした施設管理の怠慢を許すなら、従業員も行動でそれを模倣するようになる。最初は少しだけ、そしてだんだん大胆に。実際のところ、従業員は気配りをしないようにと教育を受けているようなものだ。その結果として、荷物をあちこちにぶつけ、廊下で大声を出し、だらしない服装をし、会社にも自分に割り当てられた役割にも気配りをしなくなる。まもなく、手を抜いて宿泊客の荷物や清掃用カードが廊下や部屋の角にぶつかっても平気になり、壁のすり傷にえぐれた柱も加わって、廊下はボロボロになってしまう。

支配人が施設をいつも修理し、小さいことにも耳を傾けて、気配りをしている態度を示せば、従業員は細部が最も大切だというノンバーバル・メッセージを受け取る。その結果はどうだろうか? 従業員はそれを誇りに思うのだ。私はそういう施設の従業員と話をしたことがあるから、それを知っている。彼らは格別な場所で働くことに誇りを感じる。二流の場所で働くことを目指している人はいるだろうか? 人は自分の職場に、そこに分がどう貢献しているかに、誇りをもちたいと願っている。支配人が気配りをすれば、従業員も気配りをし、顧客にはそれがわかる。

もしあなたがこれまで、自分の期待をはっきり伝えてこなかったのなら、従業員の怠慢ぶりを責めてはいけない。有無を言わせぬ命令を下す必要はない――ただ、はっきり伝えることだ。顧客への応対についての規範を作ればいい。対応するまでの客の待ち時間はどこまで許されるのか? 販売やサービスの担当者はどんな言葉づかいをするのか? 販売とサービスを担当する人物は、とりわけ目につく。あなたの会社の担当者たちは、可能な限り最高の印象を与えているだろうか?

マリオット・インターナショナルは従業員をきちんと教育して、従業員に期待される行動を明確に伝えるという方針を守っており、その姿勢にはいつも感心させられる。たとえば、マリオットではすべての従業員が――客室係から駐車係、接客主任から支配人まですべて――おはようございますと挨拶し、それも心から言っているように見える挨拶をすることが徹底されている。これは大きな違いを生む。ほかのホテルでは、スタッフが客の目を見ずにすれ違い、まるで何かを恥ずかしがっているような様子だ。けれどもマリオット・ホテルに入っていったときやホテル内を歩いているとき、心から挨拶されると、自分が特別な存在になったような、そこが特別な場所のような気分になる。

この小さな違いが重要なのだ。ついこのあいだ、地元のレストランのウェイターが、食べ物を待っている客の目の前でメールを打っているのを見かけた。仕事を中断しなければならないほど大事なメッセージがあるだろうか? ここで教育が必要になる。ダイニングルームで働いている間に携帯電話を使ってはいけない。電話は休憩時間にかければいい。昨今は飛行機の客室乗務員まで、携帯電話の誤った使いかたをしているのを見かける。ドアがすでに開いているのに電話やメールに忙しく、乗客が案内なしで機内に入らなければならないことがある。

何をおいても、笑顔で伝える前向きな態度ほど強力なノンバーバルはほかにない。少し前に、私はコーヒーを飲みながらクライアントと話ができる場所を探していた。あるコーヒーショップで、レジのあたりに店の案内カードが見当たらなかったので、レジ係に一枚もらえないかと頼んでみた。彼女はちょうど別の客の会計をしている最中で、私のほうに目を向けることもなく、少しお待ちくださいとも言わずに、ただ「今、切らしています」とそっけなく言った。そのひと言で、店は私という将来の客を失った。それとは正反対に、オープンしたばかりで案内カードがまだ出来上がっていなかったあるレストランでは、レジ係の女性がメニューのコピーを私に手渡しながら、笑顔でこう言葉を添えた。「私どもの電話番号は、この中に書いてあります」。

この章であげたたくさんの例、モテルのチェックインの行列から、食品スーパー、コンピューターショップまでの話は、次のようなメッセージを伝えている――とにかく行動を起こすこは、まったく行動しないよりもいい。

「ビルの処方センター」は、フロリダ州ブランドンにあるすばらしい薬局だ。ジョン・ノリエガが父のビルから数年前に店を継いでおり、一九五六年以来、どこをどう見ても目ざましい成功を遂げてきた。この盛況な薬局のすぐ隣には大型チェーン店ウォルグリーンズがあり、一マイル以内には別の全国チェーンの薬局が三店舗も店を構えているのだが、何と車で一時間以上もかかるオーランドから、薬を求めてビルの店にやってくる客がいる。なぜだろうか? それは従業員全員が、すぐに行動を起こしてくれるからだ。どんな問題でも解決するまで努力してくれる。保険会社が支払ってくれない? この店が電話をして、支払いにこぎつける。医者が折り返しの電話をくれない? その医師にはジョンからの電話が入る。車で店まで行けない人がいれば、店のほうから車で来てくれる。何か説明してほしいことがあれば、印刷物をもらうだけでなく、薬剤師からじかに説明を聞ける。客が店内に入ると従業員のひとりが必ず対応し、しかも名前を覚えている。想像してみよう――この時代にあって、正真正銘の顧客サービスだ。

私の家から歩ける距離に薬局が二軒あるが、私はいつも二八マイルの距離を運転してビルの店まで行く。そのサービスと親しみやすい雰囲気には、その距離を運転するだけの価値がある。あなたの近所にそういう店がいくつあるだろうか? 「ビルの処方センター」は競争など怖がっていない。こと商品とサービスに関する限り、競争相手はいないからだ。事実、おいそれとは真似のできないゴールドスタンダードになっている。この店のビジネスモデルはいたって単純なもので、「お客様を丁寧に対応し、お客様が来店して瞬間から、お客様のために行動を起こす」となる。顧客は群れをなして何度でも戻ってくる。

行動と同じくらい大切なのが態度だ。態度を測定することはできないけれど、売上の増減となって表れる。そして態度はほとんど、ノンバーバルで表現される。店や会社に入って、むかつくような態度の人物を相手にした経験は、誰でもありありと思い出せるのではないだろうか。そういう人物について、私たちは何を観察しているのだろうか? わずかにしかめた顔や、バカにしたような表情まで、すべて目に入っている。そんな表情は見たくないし、私たちは顧客として、そんな行動に対して利益をもたらすべきではない。

それとは正反対の態度として、私はニューヨークにある世界規模の銀行を思い浮かべる。そこでは受付係が、入ってくる投資家に立って挨拶する。客はまさに特別な存在になった気分がする――しかもそれは簡単にできるノンバーバルだ。大きな労力は要らなくても、その姿は美しく、いつまでも忘れない印象を与える。

社員には、仕事ぶりと同時に見栄えも大切だと教えなければいけない。一方がもう一方を打ち消してはならず、両方が互いに強め合う必要がある。理想的には、社員を雇ってからではなく、雇う前にこのような期待を伝えておく。ほとんどの社員は秀でたい、成功したいと思っており、その実現は、少しだけ豊かに経験を積んで先を進む者の肩にかかっている。そして先輩は、何がうまくいき何がうまくいかないか、何が人に印象を当てるか、どのように振る舞えばいいかを、彼らに教えることができる。社員がこの情報を手にすれば、輝くことができる。

基準を定めるについては、人は同調性を尊ぶこと、ミラーリングは快適さを生むことを覚えておこう。行動と仕事ぶりについて共通の基準を共有するのは、快適なことだ。その結果として生じる団結力は、社員だけでなく顧客にも恩恵をもたらすだろう。この結束にはさまざまな名前がつけられている――モラル、チームスピリット、共有のビジョン、団結心。私はこれを、卓越への王者の道と呼ぶ。それは私たちが必死になって得ようと努力しなければならないもの、適切な注意と気配りによって得られるものだ。

最後に、もちろんあなた自身の基準を、あなたの社員に、あなたのノンバーバルを通して伝えることが肝心だ――自分がどのように顧客とスタッフに挨拶し、どう対応するかで、自分がオフィスと自身をそんなふうに手入れするかで、自分の態度と、自分のコミュニケーションと行動のスタイルで。つまり、「私が言うとおりにするだけでなく、私がするとおりにしなさい!」と伝えられるように。