第1014冊目  上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書) [新書]岡本 浩一 (著)

上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書)

上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書)

イメージが発声する

シャドウボクシングをご存じだと思う。相手の動きをイメージしながら、自分が動き、自分の動きに対する相手の対応をまたイメージするというのを繰り返す。イメージがかなり素早く、つまり考えるまでもなく、湧き起こってきてはじめてできるものである。この、イメージがどんどん湧き起こってくるというのが、上級者と中級者の違いである。

将棋や碁が強くなった人は、子どもの頃に、一枚の盤で先手と後手の両方をもってゲームをする時期をほとんど必ず経ている。「黒がこう打ったら、白はここを切って、戦い突入!」というような感じで、飽きもせず両方を担当して一人二役で「対局」している。まわりの大人からは不気味に思われたりするのだが、本人にしてみると、心の中に溢れるイメージが出てくるのである。

音楽の演奏をする場合でも、ある程度曲が仕上がってくると、上級者は、自分の演奏を聴いている聴衆の心の動きや眼差しをイメージしながら練習することができる。そうすると、同じ曲を何度か弾いても、ある音符のフェルマータ(長く延ばす箇所)などを微妙に工夫したり、ちょっとしたリズムの乱れが聴衆の心にどのように響くかなどを想像して弾くことになるので、その過程で演奏そのものに「厚み」が加わる。