第1008冊目  人生は勉強より「世渡り力」だ! (青春新書インテリジェンス) [新書]岡野 雅行 (著)

人生は勉強より「世渡り力」だ! (青春新書インテリジェンス)

人生は勉強より「世渡り力」だ! (青春新書インテリジェンス)

落語は世渡り力の教科書だ


いまの若い人はしゃべりがいけない。声は小さいし、言葉だって、俺なんかには訳がわからないもんが罷り通っている。

人づきあいでも、仕事でもしゃべれなきゃ話にならないぞ。俺がガキの頃は、「え〜っと」とか、「あのぉ」なんて口ごもろうもんなら、「おめぇはバカか? しっかりしゃべれ!」と喝を入れられたね。

とってこきの方法を教えようか? 落語を聴くんだよ。落語にはいろいろな言葉がぽんぽん出てくるし、話の流れってのはこういうもんだなってことが分かる。俺は昔から、暗記するほど聴いていたから、どんな商談だって、取材のときだって、「え〜っと」なんと言ったことはないね。言いたいことをそのまま言葉にできるんだ。言いそびれるってことは間違ってもない。

いまは寄席番組もないし、落語に馴染みがない人が多いだろうけど、落語にはしゃべりだけじゃなくて、発想やアイディアのヒントがぎっしりつまってるんだ。俺のおすすめを紹介しよう。

「付け馬」ってのがある。付け馬は昔の吉原で、無銭飲食をした客の家までついていって、勘定を取りたてる役割の若い衆のことだ。飲み食いしていざ勘定の段になったら、「金がない」という男に、付け馬がついていく。男はさんざん付け馬を引っ張り回した揚げ句、棺桶屋の前に若い衆を連れていくわけだ。そこで、

「ここは叔父さんの家だから、払ってくれる。話をつけてくるからちょっと待っててくれ」と言って棺桶屋のなかに入るんだな。なかで男はこんな話をするんだ。外で待っている若いのは、昨夜兄さんを亡くした。急いで大きい棺桶をつくってやっておくれってね

棺桶やから出てきた男は、付け馬にこう告げて行ってしまう。

「叔父さんが承知してくれたから、出てきたら金を受けとってお帰り」

付け馬はこれでなんとか金を払ってもらえるって安心して待ってると、棺桶が運ばれてくる。話を聞いて騙されたことが若るんだけど、もうあとの祭りってやつだ。棺桶の代金を請求された若い衆が、「一文なしだ」って言うと、棺桶屋が店の小僧に言うんだな。

「小僧、吉原までこいつの馬に行ってこい!」

客の勘定を取りに来た付け馬が、てめぇに付け馬されちまうってオチだけど、おもしろいだろ。ただ、料金を踏み倒すってんじゃなくて、付け馬を引っかけちまおうって発想がいい。こういうしゃれっ気の利いた発想は、仕事でも絶対役に立つね。