第987冊目 名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方 (日経ビジネス文庫) [文庫]鈴木 康之 (著)
- 作者: 鈴木康之
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2008/07/01
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電話でお辞儀する人を見習え
ケイタイの今日でもよく見かけますが、昔から電話の受話器を耳に当てて、相手にぺこぺこと頭を下げて謝っている人や、深々とお辞儀して礼を言っている人がいます。見ていてとても好感のもてる光景です。話をするということは、こうであるべきだと思います。ほんとうに気持ちがこもっていたら、こうする、いやこうなるのが自然です。商人やセールスマンの人ならなおさらでしょう。
お辞儀しながらの人の声にはそれなりの感情が入っていますから、お辞儀が相手の耳には間違いなく「見えて」いるはずです。
紙の上の文字ですら、気持ちをこめて書くと、
ありがとう。
では伝わらないような気がして、思わず
ありがとう!
と書いてしまう。それでも足りなくて、
どうもありがとう!
ホントにどうもありがとう!
ホントにホントに、どうもありがとう!
ホントにホントに、どうもありがとう! ご恩は一生忘れません。
となります。キリがありませんが、気持ちをこめるということは、こうなることです。ただし、それではこちら側の気持ちだけ。相手の側のことも考えなければなりませんから、どこかでほど良く抑えて止めるか、別の表現を考えなければなりません。
広告コピーの場合は、美味しいものはより美味しそうに、柔らかいものはより柔らかそうに、商品特性が伝わらないと広告の目的を果たしませんから、コピーライターは気持ちの表現に腐心します。そこが仕事の楽しみでもあります。
新聞広告や雑誌広告など紙媒体上の文字にいる気持ちの表現は難題です。TVCMやラジオCMでは俳優やナレーターの演技や持ち前の声や話し方で、最もふさわしい「ありがとう」と表現することができます。バックに音楽を流して気分を盛り上げることもできます。
紙の上に書く文章では、そういう演出が思い通りにはできません。むしろ、読む人の気持ち次第で書き手の思い通りに読んで貰えなかったりしますから、厄介です。
どう書いたらいいか。電話の相手には見えないのに、一生懸命お辞儀している人のあれを見習うといいのです。読んでくれている人に対して、一生懸命になって気持ちをこめれば、きもちは、もう一言の言葉になり、もう一文字がくっついたり、別な単語になったり、もっと違う文章になったりして現れてきます。
紙に印刷される広告コピーの場合は、必ずデザインされます。優れたデザイナーほど書体の選択や大きさや色彩処理などで言葉の演出をしてくれます。それによってコピーがより読みやすくなったり、より強くなったり、より優しくなったりします。このことはとくにデザイナーの手を借りることのない手紙やビジネス文書でも言えることです。タテ書きかヨコ書きか、何色のペンにするか、パソコンならフォント、サイズ、字間行間、四角い箱組みか左揃えのなりゆき組みか、一行の長さなどの配慮で読む人たちに受け入れてもらう度合いはずいぶん違ってきます。そのあたりをよく考えて構えてから書かないとソンします。