第923冊目  人の心を動かす文章術 [単行本]樋口 裕一 (著)

人の心を動かす文章術

人の心を動かす文章術

書き出しは文章の印象を決定づける


面白い文章にするコツ、それは、まず書き出しを工夫することだ。

書き出しがつまらないと、読み手は読みたいという気を起こさない。興味を引かれない。全体がつまらないのではないかという印象をもってしまう。ときには、せっかくの優れた文章も、出だしがよくないだけのために、つまらないという先入観を抱かれて読んでもらえないことがある。

その点、はじめに興味を引くと、だんだんと文章の世界に読み手を入る込ませることができる。とりわけ、文章コンクールのような場合には、一人の人がたくさんの文章を大慌てに読みので、はじめから人を引きつける必要がある。仮に最後まで読んでもらえたとしても、最初に読み手を自分の世界に引き込んでこかないと、文章全体が空回りすることがある。

私はときどき講演をする。ほとんどの場合、聴衆にそこそこの満足をいただけていると思っているが、ときに失敗することがある。失敗にはさまざまな原因がある。想定していた聴衆が目の前の人たちとちがっていたというのが、その原因の最もたるものだ。若者のつもりで準備をしていたら、目の前の聴衆は年配の人ばかりで、うろたえてしまったり、高校の先生が相手のつもりで話していたら、あとで、ほとんどが塾の先生だったとわかっというようなことがときどき起こる。

ところが、そうでなくても失敗することがある。別の講演でウケたときと同じことをしゃべっている。そのときと聴衆の層にちがいがあるようには見えないのだが、なぜか客層はしらけている。前回ウケたことを言っても、若い声すら聞こえない。うなずきながら聞いてくれている人もいない。居眠りしている人、隣としゃべっている人も目立つ。途中で退席する人もいる。空回りしているのを感じて、いろいろと気を引きそうなことを言ってみるが、ことどとくすべって、ますますしらけてしまう。

こうした場合、反省してみると、出だしに失敗していることが多い。開口一番にしゃべったことに違和感を持たれたり、反感をもられたりすると、そのあと、いつもと同じことをしゃべっても、まったく反応が異なるのだ。

これは講演の場合だが、文章の場合は講演ほどダイレクトには反応は伝わらない。だが、文章でも同じようになことが起こっているといっていいだろう。

出だしというのは、その文章の第一印象なのだ。読み手ははじめての文章に出会っている。そのとき、第一印象が悪いと、その時点で好感がもたれない。反対に出だしを工夫し、読み手の興味を引き、読み手に好印象を与えると、しばらく読んでもらえることになる。

したがって、書き出しは、ほかのどの部分よりも工夫を凝らす必要がある。