第869冊目 小泉進次郎の話す力 [単行本(ソフトカバー)]佐藤綾子 (著)

小泉進次郎の話す力

小泉進次郎の話す力

練習に練習を重ねる

二〇一〇年四月九日、小泉進次郎氏は北沢俊美防衛大臣と激突します。この緊張に満ちた国会討論の場で、議長がこともあろうに小泉進次郎司の名前を呼ぶのに、真面目に本気で間違えてしまいました。「小泉純一郎君」と呼び上げて、「いや、これは失礼、進次郎君」と言い換えたのです。これへの答えは絶妙でした。「早速に緊張を解いてくださってありがとうございます」と、このように返したのです。

もちろんこれは原稿には書いていないセリフです。起きた事柄自体が、想定外のことですから。しかし、書いてきたことだけを言わなければならないと頭がいっぱいになっている新人議員には、なかなかこんな切り返しはできないはずです。

普天間基地の問題についても、彼はほとんど原稿を見ずに、「最低でも県外といったことはウソではないか」と詰め寄ったのですが。やりとりのあいだ、一度も下を見ません。目は北沢大臣を見据えて背筋を前傾させて詰め寄ります。

とても若手のなりたての議員とは思えない迫力です。父親そっくりに右手をガンガン振り回し、大臣の顔にまっすぐ視線を当てて「ウソだ」と言ったのですから、あわてて、視線を下に落としたのは大臣のほうでした。

相当な迫力でした。やむなく北沢防衛大臣が「最低でも県外と言ったからウソとは言えない。なぜならば努力しているのですから」と答えたが、まるきり小学生の応答のように幼稚に聞こえました。

こんな応答をたじたじと北沢大臣がしなければならないほど、この日の進次郎氏の攻め方は口調も鋭く、身ぶり手ぶりが激しく、声のボリュームもマイク不要の大きさで、つまるところ、練習に練習を重ねてこその自信があったにちがいありません。言い間違いも一切なく、原稿から目を上げての素晴らしい完成度でした。