第864冊目 小泉進次郎の話す力 [単行本(ソフトカバー)]佐藤綾子 (著)

小泉進次郎の話す力

小泉進次郎の話す力

決め言葉、ワンフレーズで心をつかむ

「街頭で歩いている人、急いでいる人に聞いてもらうにはとにかくワンフレーズで最初の一分間が勝負ですね。記者会見だって同じでしょう。みんな忙しいなかで聞いていますから。それで聞いて人みんなをファンにするつもりでよく聞こえるようにやっています」(二〇一〇年十月七日、議員会館にて著者との談話)

この談話中に自然に飛び出した彼の発言こそ、もちろん本人はそんな技法だと意識してはいませんが、第二章で述べる父・小泉純一郎氏得意の「サウンドバイド」のテクニックです。

この時の私と進次郎氏との案内でのディスカッションでの平均的速度は、明らかに一分kなんあたり二百六十六文字を超えていたでしょう。彼は早口で自説を展開していました。正確に文字カウントすれば、おそらく三百文字を超えていたはずです。

一方、街頭演説三本をコーディングしてみた私は、その平均速度がむしろゆっくりめなのに気づきました。室内とちがって、街頭では車の騒音や人の話し声などさまざまな音がない交ぜになって、ノイズ(パフォーマンス学における、スピーチの目的を妨げる余分な音と動作の総称」となって。聞き手の集中を妨げます。だからゆっくりはっきり言う必要があるのです。上の分析表を見てください。

さてその上に大切なことは、もしも演者が長たらしい文章をしゃべると、人々が最初から聞く気を失ってしまうことです。最初に、短いはっきりした言葉で相手の心に噛みついてしまうこと。これが「サウンドバイト」(文字通り「音の噛みつき」)テクニックです。

早いうちに「何か面白そうなこと、大事そうなことを言っているな、何だろう」と思わせないと、聞き手の集中力がもたないのです。それには、「聞こう、聞いてみたい」という動機づけの言葉がスタートではまず必要です。

動機になる言葉は何か? それを探しましょう。「子ども手当」も、その意味では「サウンドバイト」になっていたからこそ、民主党政権交代が成立しました。

言葉自体に魅力があって、それが短くて、耳当たりが良くて、聞いてすぐに覚えられる言葉。それが「サウンドバイト」に使う言葉を選ぶ時の条件です。

小泉純一郎氏の「郵政改革」、オバマの〝change〟〝hope〟そして進次郎氏の場合は@一流の野党」がこれに該当します。意味にブラックユーモアがあり、アイロニカルであり、耳で聞いて音の調子がいい単語です。

読者の皆さんも、これから何か演説やスピーチをしようという時には、何か自分の喋り全体のなかで、「これぞ決め単語、サウンドバイトだ」という単語やフレーズを考えてみましょう。そしてその言葉を、騒音などの何かのノイズのなかで使う時は、そこを大きな声でゆっくりと言ってください。

繰り返すのも手です。これは、効きます。