第915冊目 小泉進次郎の話す力 [単行本(ソフトカバー)]
佐藤綾子 (著)
- 作者: 佐藤綾子
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2010/12/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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あえて原稿を見ず、自信を演出する
進次郎氏が応援演説のような、政治プロフェッショナルではない一般市民に話す時だけに演説の才能を発揮すると思ったら、とんでもない間違いです。
彼の本当の恐ろしさは、経験豊かなプロフェッショナルに対してもまったくひるむことなく、時には原稿を見ずにガンガンと自説を展開する能力です。それらの専門演説のなかで私の記憶によく残っているのは、20105月13日の衆議院本会議における彼の発言です。
名前を呼ばれてスタスタと大幅なステップで登場した進次郎氏は、「このように立派な業績を立ててきた田中委員長に反対するのは非常に残念ですが」と通り一遍の美辞麗句を使ったあと、「私は委員長の解任賛成論をこれから展開します」と言って、それから、「なぜ賛成するのかという理由3点を順をおって言っていきます」と予告しているのです。
このように自分がこれから言うことが3点あり、手短に3点のポイントだけを先に言って、あとから順を追って事短かに説明していくやり方は、西欧型のプレゼンのテクニックでは最もよく使う模範的なやり方です。
私の「ASプレゼンテーション」でも、いつもビジネスマンに教えているやり方で、相手の心に最も理路整然と、しかも強い自信とともに伝わってくるやり方なのです。「3点ある」と聞いた人は、1は何で2は何で、3は何でだろうと耳をそばだてるわけです。
そこで彼はこう言うわけです。「私たちに暴力行為はありませんでした。あったのは民主党の強行採決であります」。この時、彼はまったく原稿を見ていません。
右手を大きく振り上げ、首を大きく振って、ワーッと飛んでくる大きな声の野次のあいだ、次の言葉を発しないのです。そして、「ご静粛に」という議長の声とともに少し静まったタイミングを見計らって、「強行採決があった、そうではない、もし間違っている、暴力行為はなかったということがわかったら、潔く撤回してほしい」。これは会場が割れるほどの大声でした。
そして、反対議員たちの目をまっすぐに見つめながら、民主党の主張のなかの無理をきちんと3点挙げていくのです。「仙石大臣が正当だと言った、公務員の費用削減アイディアに対する3つの反対理由を、箇条書きに反論していきます。例えば、公務員を2割カットするために採用を控えなければならない。そうなれば霞が関は高齢化します」というわけです。
この発言をビデオに録って何度も聞いた私は、なんと弁舌が論理的に構築されているものか、しかも原稿を見ていない、と驚きました。
何かを話す時、原稿を持って話す癖のある読者は、直ちにそれをおやめください。それだけでも相当に自信の演出ができます。