第879冊目 随筆集 念ずれば花ひらく [単行本]

坂村 真民 (著)


詩集 念ずれば花ひらく

詩集 念ずれば花ひらく

本気


本気になると
世界が変わってくる
自分が変わってくる
変わってこなかったら
まだ本気になっていない証拠だ
本気な恋
本気な仕事
ああ
人間一度
こいつを
つかまんことには

というわたしの誌がある。Yさんは銀行に勤めているが、銀行の窓口の壁に、この誌をかけたところ、よく写して帰る人があるそうである。金にこまって心弱くなっているとき、この誌をふと見て、そうだ本気になってもう一度やりなおそう、と思うのであろうか。思わぬ処で、この誌が役に立っていてうれしく思った。

わたしも本気になる方であるが、しかし本当に本気になるというのは、むずかしいものである。長続きしないからである。つまり本気の気が崩れ出すのである。特に若いときにはそれが多い。自分のことをふりかえってみても、そうである。だれだってやり出すときは、本気でやるんだと言う。しかしその気力が弱まり駄目になる。わたしも本気でやり出した短歌だったが、とうとう別れてしまった。だから本気という言葉はよく使われるが、これほどむずかしいものはないと思う。特に本気な恋となると相当な勇気がいり、更に困難だ。


でもわたしが言いたいのは、本当にこいつをつかむかどうかで、人間が分かれてくるということである。つまり、つかむということの真意義を知るということである。

つかむとは、他を捨てて一つにしぼるということである。だかれこれができない限り、いくら本気だ本気だと言っても、それは口ばかりで本ものにはならない。