第820冊目 走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫) [ペーパーバック] 村上 春樹 (著)

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)

小学校かた大学にいたるまで、ごく一部を例外として、学校で強制的にやらされる勉強に、おおよそ興味が持てなかった。これはやらなくてはならないことなんだからと自分に言い聞かせて、ある程度のことはやってなんとか大学にまでは進んだけれど、勉学面白いと思ったことはほとんど一度もなかった。だから表に出せないようなひど成績をとっていたわけではないのだが、良い成績をとってほめえられたとか、何かで一番になったとか、そういう晴れがましい記憶は一切ない。僕が勉学することの興味を覚えるようになっのは、所定の教育システムをなんとかやり過ごしたあと、いわゆる「社会人」になってからである。自分が興味を持つ領域のものごとに、自分合ったペースで、自分の好きな方法で追求していくと、知識や技術がきえめて効率よく身につくのだということがわかった。たとえば翻訳技術にしても、そのようにして自己流で、いわば身銭を切りながらひとつひとつ身につけてきた。だから一応のかたちがつくまでに時間もかかったし、試行錯誤も重ねたが、そのぶん学んだことはそっくり身についた。ーー村上春樹

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)

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