第534冊目 勝負の方程式 落合博満/著

勝負の方程式

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ヒントをくれた投手との駆け引き
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人からの話に、耳を傾けて損はない。とくに、先輩選手の言葉のなかには、目からウロコの落ちるようなキーワードの含まれている場合が少なくないからである。


「あいつは、おれがほうるたびに、一球一球、全部、ボールを読んでくる。あいつは、配球を読んで待ちを変えてくるバッターだろ。ばかだね……」――江夏豊


「おれのほうるボールを、あいつは、あとからあとから追っかけてくる。あんなんじゃ、あれがほうるボールと、偶然に一致したときしきゃ打てないね……」――江夏豊


「根気よく待たれるほど、ピッチャーにとっていやなものはないね」――江夏豊


「このボールをほうらなきゃいけないような状況に追い込まれると、自分の持ち球のうち、もっもと得意とするボールをほうりたくなる習性をもっている。この状況を脱するには、このボール以外にはないと、固く信じ込んでいるところがある」――江夏豊



私は、入団3年目という若さもあって、それまでは彼の配球を読んでこのボールを待つといった対応策をとっていた。だから、あるときはカーブだったり、別のある打席ではシンカーであったりと、待っているボールが、配球の読み方次第でクルクルと変わっていたものである。ピッチャーの側からすると、私は追っかけ屋だったのである。


江夏さんからのヒントによって、前述したように、山田さんとの対戦では、待ちを変えずに、いつかは必ず彼がほうってくるシンカーだけを待つことにしてみようと、対応策を変えることにしたのである。そのあと、例のピッチャー返しの〝判定ヒット〟などがあり、山田さんに対しては、通算で3割以上の成績を残した。


私は、山田さんに対したのと同様に、他球団のピッチャーにも、新しい対処法で勝負をするようにした。その成績もひとつひとつを語るのは、煩雑になるので省略するが、恥ずかしくない数字になっているはずだ。


私の絶好調時の打球は、ピッチャーライナーである。身体にぶつかるほどの厳しい内角攻めにあえば、どんなバッターでもカチンとくる。こんなとき、私はピッチャー返しを狙う。捕球されたとしても、それはかまわない。結果としてヒットにはならなかったが、狙ったところに打ち返せたことは、完璧な打ち方が出来た証拠だからである。


ほかの選手の打撃を見ていて、重要なヒントを発見する場合も少なくない。とくに自分が手本とする選手が相手チームにいるようなときは、その選手のパッティングを課題をもって観察すべきである。今日は、腕の使い方を中心に、次回は、腰の使い方というように……。ただ、漠然と見ていたのでは、なんの勉強にもならない。


あなたにすべてのよきことが雪崩ごとく起きますように♪


サムライ街道        (CCCD)

サムライ街道 (CCCD)


今日の名言


自分はこれで勝負できる」というものを、ひとつ決めておくこと。分野は何だっていい。その代わり、それに関しては余人をもって代えがたいくらいのレベルを目標にしなければ意味がない。――大前研一


目次


落合博満という男
第1章 勝負の方程式―落合博満を育てた12人の投手たち
第2章 フィールドの哲学―一流へのパスポートをどう手に入れるか
落合博満のこれから
落合博満打撃記録


勝負の方程式

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