第3343冊目 「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)  ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

  • すぐに立ち上がる


アメリカの定評のあるバレエ団のディレクターを務めていたジョンは、あるとき理事長と些細な口論をしたために解任されてしまった。このとき彼の最初の反応は、落胆だった。これまでいくつもの講演を成功させ、高い評価を受け、観客動員数も増やしてきたというのに、そういうことは一切考慮されずにクビになってしまったのである。ジョンは途方に暮れ、このときに触れられるのさえいやだった。ルディ・クルーもまったく同じである。彼は、ニューヨーク市長と学校評議会から更迭されたことを公に認めるのはもちろん、自分自身に認めることにさえ抵抗を感じたという。フェフリー・ソネンフェルドにしても、最初の反応は「絶対に誰にも知られたくない」というものだった。あまりに屈辱的で、得意の弁舌で周囲に訴える気にもならなかった。逆境に直面して落ち込むのは、無理もないことだ。というのも、世間では例の「公正世界仮説」が幅を利かせているからである。つまりほとんどの人は、「よい人は報われ悪い人間は罰せられるように世の中はできている」と考えている。となれば、自分がひどい目に遭うのも自分のせいだということになり、苦境に陥った人はまず自分を責めることになる。


この反応は自然かもしれないが、何の救いにもならない。ジョンにも、クルーにも、ソネンフェルドにも、それぞれに言い分があった。なぜ自分の身にこのような理不尽なことが起きたのか、声を大にして主張すべきことがあった。そして声を上げるためには、いつまでも途方に暮れていてはだめだ。意気消沈し、閉じこもり、世間の目を避けていてはいけない。捲土重来を期すためには、自分を責めるのをやめなければならない。敵をつけ上がらせてはいけない。手をこまねいていると、世間から失敗者の烙印を押されかねない。


失意や落胆を乗り越える最善の方法は、できるだけ多くの人に、できるだけすぐに、何が起きたのかを伝え、あなたの立場を説明して回ることである。すると、味方は思ったより多いことがきっとわかるだろう。あなたを責めるのではなく支えになりたいという人が多いことにも、気づくだろう。それに、話せば話すほど、屈辱や失望など強い負の感情が起きなくなっていく。苦しい状況に対して免疫ができ、さほど辛くは感じくなるからだ。これは、大切なことである。置かれた状況を感情的にならずに見つめることができれば、次にどうすべきかを戦略的に考えられるようになる。