第2659冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・ェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

  • 手本をそのまままねさせる


私たちの場合、親としての経験から、人が直感的にまねる性質を知った。ケイティが当時3歳の娘と外食に出かけたある夜のことだった。娘がそれまで見たことない身ぶりをしているのに気づいた。眉毛をこすり、腕を組んで、少し困った様子で、とても3歳児には見えなかった。数秒後、娘が隣のテーブルの男性を観察してまねていたのがわかった――まちがえようがない。男性が身ぶりを帰ると、娘もよく観察して、したがった。ケイティと夫は思わず笑ったが、ものまねに男性が気を悪くするのではないかと思い、娘の気をそらせてやめさせた。


直感的にまねる性質は、大人になるとどうなるのだろう。映画「ヤング・フランケンシュタイン」に典型的な例がある。マーティ・フェルドマン演ずるアイゴールが、ジーン・ワイルダーフランケンシュタイン博士に対して「こっちに歩いてこい」と手招きするシーンだ。博士が素直についていくと、杖を使って足を引きずるアイゴールは、博士に杖を手渡して「こうするんだ!」と言う。背の曲がったアイゴールが杖をついて歩くふりをすると、博士も身を屈めて足を引きずり出すが、そのまねは本当におかしい。まず見た目が笑えるし、人が誰かをそっくりにまねたときの驚きとばかばかしさがある。


こうしたものまねは自然と身につく。ケイティと夫は夕食を終えたあと、娘のものまねがまれな出来事ではなかったことに気づいた。あまりにもなじみのない身ぶりをまえたせいで気づいたのだが、じつは娘がいつもしていること――ほかの人の動作を正確にまねる――にすぎなかった。ある時点で私たちは、ものまねから抜け出すように人を訓練する。独自性を重視し、正確なものまねを低く評価する。しかし、手本を用いて新しいスキルを練習し、習得する際には、「こうするんだ」が本当に最高の方法になるときもある。


悩んでいる教師(ロージーと呼ぶ)を助けたアンコモン・スクールズのコーチの最近の体験を紹介しよう。ロージーは授業の基本的な管理に課題を抱えていて、とりわけ生徒を正すための授業がとどこおったときに、さらに問題行動を引き起こしてしまうことが多かった。ロージーのコーチは改善点を数多く指摘したが、ついにロージーのクラスで実際に授業をおこない、彼女に見学させることにした。コーチの模範授業のあとでふたりは話し合い、どうやらロージーはこつをつかんだようだった。ロージーが見たのは、コーチがことばではなく身ぶりで生徒の行動を正す姿だった。コーチがばやく生徒に注意して教科書に戻るものも見た。ところが次の日、コーチはロージーがまえにも増して悩んでいることに驚いた。直感的に理解できない身ぶりを彼女がつかったために、生徒はどのようにどうしたがえばいいのかわからなかったのだ。すばやく注意したときにも、明確な言い方ではないうえに否定的だったので、やはり生徒はどうしたがえばいいかわらかず、したがおうとしなかった。ロージーは彼女なりにコーチの手本を分析したが、誤って活用してしまったのだ。


見過ごされがちなことだが、新人は手本をそのまままねていいのであり、むしろそうするべきだ。わかりきったことと思うかもしれない。しかし多くの人は、手本を示されると、自分なりの解釈を加えるべきだと感じる。ものまねは幼少時代にごく自然に身についたことだから、これではいけないと思いがちだ。生まれてからの数年間は学習マシンのごとく、まねしたいという衝動にかられる。だが成人すると考えすぎてしまう人がいて、彼らは手本が自分のスタイルや個性に合うか考えようとして行きづまり、結局手本を活用しないまま終わる。また、学習者のなかには、手本に自分なりの解釈を取り入れようとして失敗し、実行方法ではなく自分に当てはまらないせいだと勝手に考える人もいる。


手本をそのまままねることは、テクニックの完全に正しい学び方だということを知っておく必要がある。明らかに技術的なスキル、たとえば静脈にいチューブを挿入したり、コンピューターの基盤を入れ替えたりすることを習うときには、もっと忠実に手本をまねるはずだ。無数の職業で必要なプレゼンテーションや人とのやりとりなど、一見ソフトスキルに見えるものも、技術的なスキルとして扱えば、もっと簡単に自由や創造性を押しつぶしてしまうのではないかと思うかもしれない。しかし実際には、見たことをそのままおこない、考えるより行動し、簡単に成功を目にすることで、人々はより自由になり、そこからすぐれたパフォーマンスと、さらには創造性が生まれるのだ。