第2427冊目  「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

  • 目標に説得力を持たせる


社会的に価値があり説得力のある目標を掲げていれば、上をめざす道のりは容易になる。だからと言って、本来は利己的な目標の表面だけを取り繕うよう奨めているわけではない。ここで言いたいのは、上をめざす努力が社会的に望ましい価値と結びついているときには、成功の確率は高くなるということである。


たとえばローラ・エッサーマンの行く手を阻むのは、乳ガン治療の向上を妨げ患者の利益を損なうのと同じことになる。ニューヨークとマイアミで教育長を務めたルディ・クルーは、どれほどたくさんの子供たちが落ちこぼれているか、学校制度にいかに問題が多いかを繰り返し訴えていた。となればクルーの邪魔をするのは、子供たちからよりよい教育の機会を奪うことになってしまう。またニューヨーク市土木本部長のロバート・モーゼスは数十年にわたって辣腕を振るったが、それができたのは、彼に反対するのは公園整備に反対するのと同じことだったからである。ニューヨークの公園をよくしたければ、どうしてもモーゼスに味方しなければならなかった。


企業内の権力抗争にしても、あからさまな個人的利害の対立を巡って起きることはめったにない。賢い人間は、決まって「株主の利益」を持ち出す。たとえば「CEOの交代は株主の利益に適う」といった具合である。では、社外からCOOに登用されたゲイリー・ラブマンが、生え抜きの幹部を排除するときの理由は何だったのだろうか。データ分析を重んじる戦略を打ち出したうえで、「古いタイプの人間は新しい戦略になじまない」という理由をつけた。たとえばマーケティング担当役員は芸術的なセンスに優れ、前年に広告宣伝の実績に対して会長賞を授与された人物だったが、顧客データベースの構築と分析への適性がないとの理由で更迭された。自分も含めて誰にもポストの保証はな、というのがラブマンの持論である。誰もが株主の利益のために働いているのであって、ポストを決める権利を持つのは株主だというのだ。ラブマンは誠実な気持ちでそう言ったのだろうし、実際彼が株主価値を改善したことも事実である。一九九八年にハラーズにやってきたときには一六ドルだった株価は、一連の買収を完了した二〇〇七年の時点で九〇ドルに達しのだから。だが彼の株主至上論が、社会的に好ましいやり方で自身の地位と権力を確保するのに効果的だったことも、また事実である。


もっとも、たとえ「よいこと」(たとえば学校の改善、公園の整備、乳ガンの治療、株主価値の向上など)をする場合であっても、影響力や権力は必要である。さもないと、道なかばにして挫折することになるだろう。したがってよい目標は広く知らせ、協力者や支持者を募ることが大切である。