第2423冊目  「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

  • 周りからの評判をよくしておく――イメージは現実になる


ここに、二人のきわめて優秀なアメリカン・フットボール指導者がいる。二人はヘッドコーチとしてほぼ同数の試合をこなし、一人は勝率七六%(レギュラーシーズンの勝率としては全米歴代トップである)、もう一人は六一%だった。どちらもスーパーボウルを制して全米タイトルを手にしたことがある。一人は四〇代初めにオーナーから解雇されそうになり、早々と引退して解説者になった。もう一人は最近亡くなったが、辞めろと圧力をかけられたことは一度もない。早々と辞めたのは、偉大な記録を持つジョン・マッデンの方である。勝率の低いビル・ウォルシュは、辞めるどころか「ザ・ジーニアス(天才)」という称号を奉られた。どんな人も、チームも、天才と呼ばれる監督をクビにして物議を醸したくないだろう。ことほどさように、成績は重要だが評判はもっと重要である。イメージや評判の形成は、出世に役立つだけでなく、一度手に入れた地位の確保にも貢献する。


評判を身を助けるのは、もちろんプロスポーツの世界だけではない。ビジネスを含めるあらゆふ分野で、評判は重要な役割を果たす。人事評価を対象にしたある調査によると、好印象を与えることのできる社員は評価が高く、仕事はできても冴えない印象の社員は評価が低いことがわかった。経営幹部クラスになると、評判は一段と重要な意味を持つようになる。今日では、生え抜きではなく社外からCEOを登用することがめずらしくない。そんなとき取締役会が白羽の矢を立てるのは、ウォール街やメディアに受けのよい人間、自社の影響力や交渉力をぐんと高めてくれそうなスーパースターである。あなたが名経営者として評判なら、自分からあくせく売り込まなくても、あちこちの企業からお呼びがかかる。ましてあなたのCEO就任を発表するだけで株価が跳ね上がるというようなことになれば、高額の報酬が用意されるだろう。外部からのCEO登用は、じつは失敗に終わる例が多々ある。それに名経営者の評判も、作られた神話であることが少なくない。それでも多くの企業がスーパースターを三顧の礼で迎え入れる。


評判は、個人だけでなく組織とも結びつく。たとえばGEは名経営者を輩出することで評価が高い。したがってGEを辞めた経営幹部は引く手あまたで、金融市場からも大いに期待され、多額の報酬とともに他社のCEOにおさまる。ハーバード・ビジネススクールのボリス・グロイスバーグが、一九八九〜二〇〇一年にGEを辞めて他社のトップに就任した経営幹部二〇人について調べたところ、就任発表だけで株価が上がった人が一七人もいたことがわかった。発表のあったその日にうちに、就任先企業の時価総額が平均一一億ドル増えたという。ホームデポのCEOに転じたロバート・ナルデリの場合はとくに顕著で、時価総額は一気に一〇〇億ドルも膨らんでいる。グロイスバーグの調査では、経営者が業種を問わず能力を発揮できるわけではなく、とくに社外からのハンティングには問題が多いことも確かめられているのだが、確固たる評判を背にした人物は一向に困らないらしい。なるでりは強引な経営手法や巨額の退職金契約のために追われるようにホームデポを去った後も、転職先にも事欠かなかった。そして自動車畑とは無縁だったにもかかわらずクライスラーのCEOに迎えられた――クライスラーは破綻した。


評判の力を使って高い地位を手に入れる秘訣は、ごく単純である。よい第一印象を与えること、自分のイメージ作りに気を配ること、メディアを利用してイメージの浸透を図ること、自分で売り込みをせず他人に宣伝・称賛してもらうこと、適度にネガティブな(しかし致命的ではない)情報を戦略的に放出することである。ネガティブな情報は、弱点を知りつつあなたを選んだ人に強い責任を感じさせる点で、効果的だ。