第2254目 「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則

「権力」を握る人の法則

  • 人間は忘れ、そして許す


経済学から心理学にいたるまで、個人の行動を説明する理論の多くに共通するのは、快楽主義の原則である。要は、人間は快楽を求め苦痛を避けるということだ。このことは人間の記憶にも当てはまるし、人間関係をはじめとする生活のさまざまな面にも当てはまる。こうしたわけだから、ちょうど女性が出産の痛みを忘れるように、時が経つにつれて人は不快な体験を忘れていく。実際私たちは、手術がとても痛かったということは覚えていても、どこがどう痛かったのか、細部の記憶はすぐに薄れてしまう。同じように、他人から受けた侮辱や罵詈雑言も、いずれは忘れるし、許すものだ。とりわけ、日常的に顔を合わせる相手のことは許しやすい。そして相手に権力があれば、私たちは接触を断つまいとする。激しく対立した敵でさえやがては友になることがあるのは、こうした理由からである。


ロバート・モーゼスは、一九二〇年代にニューヨーク市土木部長として都市計画に辣腕を振るった人物である。モーゼスは、ロングアイランドの公園管理官をしていた頃、テイラー私有地と呼ばれた土地をかなり強引なやり方で差し押さえた。そして土地の一部を所有する会社に勤めていた株仲買人のキングスランド・マーシーは、あんなやり方で放置していたら、市民は残らず自宅を取り上げられかねないと憤慨する。そしてモーゼスは訴え、法廷で争った。しかしなかなか決着がつかず、数年後にマーシーは資金切れとなって取り下げを余儀なくされた。その後マーシーは政界入りし、数十年にわたりサフォーク郡共和党組織を取り仕切り、強面で知られるようになる。そうこうするうちに、かつての敵どうしは親しい友になっていった。


本章では、就職にせよ、昇進にせよ、欲しいものを手に入れようとするときに目立つのはけっして悪いことではないと述べた。他人があなたをどう思うかなどあまり気にせず、欲しいもの、必要なものはとりあえず頼んでみよう。それが、階段を上る第一歩になる。とは言え階段を上る過程では、味方に報い敵に抵抗するためのリソースや、優位に立つための情報を持っていることが必要になる。