第2097冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール  ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・イェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

  • できそうと思わせる手本を示す


学ぶ人が「手本」のなかに求めるのは、正しい方法論だけではない。いまくいくという証拠が欲しい。オーブンから見事に焼き上がったパンば現れたり、交渉の末、最終価格が合意されたりするのを見て、テクニックをどう使うかだけでなく、正しくやると何が起きるのかを理解したいのだ。


新人バイオリニストがベテランの正しい弓運びの演習を見れば、クリアで強い音色がテクニックを正しく使った証拠なのだとわかる。私たちが授業の力強いテクニックの実演を見るときには、30人中30人の生徒が没頭しているところを見たい。並々ならぬ意欲の持ち主でも、ときには疑念を抱いたり、証拠が欲しいと思ったりするものだ。初めて焼いたパンが湯気を立てる硬い岩のような状態でオーブンから出てきたら、すばらしいパンは業務用オーブンだけでなく、近所のガレージセールで買った年代物のオーブンでも本当に焼けるのか、確かめたくなるだろう。百聞は一見にしかず。テクニックやスキルが機能するのを目の当たりにすれば、やらないことの言いわけが使えなくなる。


私たちが「Teach Like a Chanpion」のテクニックを教えるときに、すぐれた教師の映像を大量に使うのは、こうした理由からだ。巧みに使われるテクニックを見せて、生徒に与える影響力を実感してもらうだけでなく、学ぶのにも役立ててほしい。しかしここで重要なのは、手本としての価値が高いテクニックが完璧に実演されているだけでなく、現実的で信じられる映像にしなければならないということだ。もしテクニックにけちをつけることができたら、その手本は役に立たない。私たちのワークショップを去るときには、すばらしい手本だけれども「自分にはぜったいできない」と感じてもらいたくない。


疑いがさらに深まることもある。練習者は自分の置かれた状況で手本のテクニックがうまくいくのを見て信じたい。信じられなければ、試そうともしないおそれがある。この現象は、テレビ番組「ナニー911」では毎週、手の負えない子供がある混乱した家庭をナニー(ベビーシッター)が訪れ、何度も同じテクニックを使って秩序をもたらす。全国ネットの番組だから、おそらく登場する親たちも、以前この番組を見ているだろう。よその家庭でナニーがすることを見ていながら、どうして手本から学ばなかったのか。わが子はちがうから、と思った可能性が高い。それまでに紹介されたテクニックではわが子に対処できないと考えたのだ。ときには、すべて試したがどれもうまくいかなかったと打ち明ける親もいる。さらに、ナニーを屈服させる子供がどこかにいるかもしれないといった意見に賛同する視聴者もいる。毎週紹介される子供にはつねに新たな問題があり、ナニーを負かす好敵手がつい現れたかもしれないと視聴者に釘づけにする。だからナニーは毎週、親たちにしつけを伝授する(「終始一貫して」、「反省させる時間を与えなさい」、「落ち着いて」、「できたかなシートを使って」)だけでなく、彼らの子供を使ってテクニックの手本を示し、うまくいくことを実際に見せる。それでようやく親たちも信じることができるのだ。


信じられる手本にするひとつの方法は、学習者が行動する状況にできるだけ近づけて手本を示すことだ。自分の会社と似たような会社であるテクニックが役立つのを見れば、試さない理由を探すのはむずかしい。もし可能なら実際の環境のなかで手本を示す。私たちはこえを「プッシュイン・モデリング(手本の当てはめ)」と呼んでいる。たとえば、会議を円滑に進める新しいテクニックをマネジャーに教えたいと思うなら、そのマネジャーが部下が集まった会議で手本を見せればいちばん説得力がある。これを教職に当てはめると、悩みを抱えた教師をベテラン教師の授業に送りこむのもいいが、その教師が担当する生徒たちにベテラン教師が授業をおこなえば、もっと信頼できる手本になる。


抵抗したり疑念を抱いたりしている人には、その人の働く環境で――その人の教室で、担当しいてる生徒のまえに立って――手本を示すのが理想だ。学習者にとって重要なのは、手本自体が巧みにおこなわれることにより、自分も同じようにできると納得することだ。ビデオで完璧な瞬間をとらえて学びの扉を開くことができるが、多少もたついても「プッシュイン・モデリング」のほうがためになる場合が多い。