第2081冊目 カリスマは誰でもなれる オリビア・フォックス・カバン (著), 矢羽野 薫 (翻訳)


カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

  • 善意と思いやり


目の前にいる人のためを、心から思ったことはあるだろうか。そのtきどんな感覚だっただろうか。おそらく心地よい温かさを感じただろう。善意を示すことは、真心を伝えるためにも、相手の心を温かさを生むためにも、とても効果的な方法だ。誰かの幸せを心から願うと、その人とより強い結びつきを感じ、その思いがあなたの顔に表れ、あなたは誠意と真心のある人だと思われ、あなたのカリスマが一気に高まる。


日常の人間関係で善意を意識すると、たちどころに温もりと優しさと思いやりと共感がボディランゲージに吹き込まれる。いずれも、まさにカリスマ的な資質だ。


カリスマがあふれるビル・クリントン元大統領に会ったことのある人は、よくこんなふうに言う。「彼といると、自分が彼にとって世界でいちばん大切な人だと思えてくる」。私は、善意を示す精神状態になるといつも、人とのやりとりに変化を感じる。相手がすぐに打ち解け、私により好意を示しているように思えるのだ。


善意を持つと、自分の気持ちも上向きになる。オキシトシンセロトニンという気分を良くするホルモンが全身を駆けめぐるからだ。さらに、人とのやりとりを成功させなければいけないという義務感が薄れる。善意を伝えることが第一の目的になり、結果を求める重圧が和らぐのだ。物事をある方向に進めようと、必死に奮闘しなくていい。そして、目の前のやりとりの結果をあまり心配しなくなるから、カリスマ的な自信をより強く感じ、発散することができる。


善意とは、他人の幸せを願うことだ。これは訓練で強化できる「心の筋肉」でもある。善意の筋肉は、衰えても鍛えれば回復する。ワイズマン研究所がfMRI(機能的磁気共鳴断層画像)を使った最近の研究によると、前向きの精神状態に対応する脳の回路は、訓練を通じて「劇的に変化」する。楽器を練習し、スポーツで上達するのと同じように、前向きの精神状態は練習して身につけることができるのだ。


善意にふさわしい精神状態を身につけるために、簡単だが効果的な方法から始めてみよう。まず、自分が善意を示した人について、好きなところを3つ挙げる。いま話をしている相手が誰であれ、褒めたいところを3つ考えよう。「靴がきれいに磨いてある」「時間通りに到着した」など、小さなことでもかまわない。良い要素を探しはじめると、精神状態も前向きに変わり、その変化がボディランゲージ全体に反映される。


続いて、もう少し本格的な善意のエクササイズをいくつか紹介する。すぐに効果を感じる人もいれば、しっくりこない人もいるだろう。効果がないという人も、のちほど試してほしいエクササイズがある。


まず、天使の羽のイメージトレーニングだ。これは神経科学者のプリヴァヒニ・ブラドゥ博士が考案した。誠意と幸福感を発散しているカリスマ性の高い人で、私はかねてから慕っている。そんな彼女がある秘密を教えてくれた――自分が話している相手や、自分の周りにいる全員が、目に見えない天使の羽根を持っていると想像するといい。


このイメージトレーニングは、人に対する見方を変える。ほんの一瞬でも、誰かのことを本当はいい人だと見ることができれば、相手に対する感情が和らいで温かくなり、あなたのボディランゲージが根本から変わる。さっそく挑戦してみよう。散歩をしながら、車を運転しながら、周りの人が天使の羽を持っていると想像する。自分にも羽があると想像するのも効果がある。あなたも含めて全員が天使のチームで、一丸となってあなたのために動いているのだ。私のコーチングのクライアントの多くが(冷静なシニアエグゼクティブたちも)、このイメージトレーニングが驚異的な効果をもたらしたと語っている。天使の羽を想像するとすぐに、心のより深いところからプレゼンスと誠意が湧き起こるという。実際、彼らのボディランゲージが伝えるプレゼンスと誠意が大幅に増えたことは、私も見ていてわかった。


聴覚にヒントがあるとやりやすい人は、いくつかのフレーズを試してみよう。たとえば、誰かを見ながら「私はあなたが好きだ。あなたという人間が好きだ」と唱える。こうしたフレーズを1日に何回か試し、自分の心を体に生じ変化を感じること。「今、自分にはあらゆる選択肢がある。この世界に最大の愛をもたらす選択肢はどれか」というフレーズが気に入っている人も多い。


このように他人の幸せだけを考えることで善意を感じ、カリスマを高める誠意が強まるという人もいる。とはいえ、善意を示そうとしている相手が気難しいかもしれない。あなたは相手に困惑や恨みを感じているかもしれない。あるいは距離を感じているかもしれない。


そういうときは、善意だけでなく、共感と思いやりまで踏み込む努力をしよう。善意とは、誰かの幸せを願うこと。相手の感情がわからなくてもいい。共感とは、相手の感情を理解すること。おそらくあなたも経験したことがあるだろう。そして思いやりとは、善意と共感を併せたもの。相手の感情を理解したうえで、相手の幸せを願う。


思いやりに関する研究で知られるポール・ギルバートは、思いやりに到達する3つのステップを次にように説明する。第1のステップは「共感」。相手が何を感じているのかを理解し、苦悩を見抜く。第2のステップは「同情」。相手の苦悩に感情を動かされる。そして第3のステップが「思いやり」。苦悩する人の幸せを願いたいという思いから生まれる。


うれしいことに、私たちは自然に思いやりを抱く傾向がある。思いやりは、認識能力より深く強く、私たちの脳の回路に広く組み込まれている。神経科学者のリック・ハンソンに言われれば、人間は今のところ地球上で最も共感力のある生物だ。


他人の幸せをすすんで考えようという気持ちがあれば、ボディランゲージが前向きに変わる。それだけでも、あなたが相手のことを真剣に考えていると思わせることができる。それこそカリスマのカギとなる要素だ。


泳ぎは泳ぎながら覚える。思いやりを持つことも、思いやりを持ちながら身につけるものだ。最初はぎこちなく感じるかもしれない。次のエクササイズは、あなたの思いやりの容量を広げるのに役立つ。