第2115冊目 ユマニチュード入門 本田 美和子 (著), ロゼット マレスコッティ (著), イヴ ジネスト (著)


ユマニチュード入門

ユマニチュード入門

  • 広い面積で、ゆっくりと、優しく


ユマニチュードの3つ目の柱「触れる」ことについて考えてみましょう。「見る」「話す」と同様に、「触れる」ことにもポジティブな触れ方とネガティブな触れ方があります。


ポジティブな触れ方には、「優しさ」「喜び」「慈愛」、そして「信頼」が込められています。動作としては「広く」「柔らかく」「ゆっくり」「なでるように」「包み込むように」という触れ方です。これはみな、ケアを受ける人に優しさを伝える技術です。


逆にネガティブな関係においてはどうでしょう。たとえば「怒り」や「葛藤」をともなう場面です。触れ方は「粗暴」で「拙速」になり、接触面積は「小さく」なり、かける圧力は「強く」なって、「急激」な動作で「つかんだり」「引っかいたり」「つねったり」することになるかもしれない。


赤ちゃんに触れるとき、自分がどんな触れ方をしているか意識したことはあるでしょうか。赤ちゃんは、自分で立って歩くことも、言葉で欲求を伝えることもできない弱い存在です。そのため、わたしたちは知らず知らずのうちに、ある共通した技術を自然に使って触れています。すなわち、広い面積で、ゆっくりと、優しく触れます。これこそが、ユマニチュードで用いる触れ方でもあるのです。

  • ケアの場での「触れる」


このように「触れる」こともまたポジティブとネガティブという2つの側面をもちますが、ケアの現場ではもうひとつ、当人にとって「不快だけど、触れられることを受け入れなければならない」という局面が出てきます。たとえば婦人科の診察や歯科の治療です。不快ではあるが自分には必要であるという合意のうえで行われる行為がもたらす触れ方です。


ケアの場面でいえば点滴やおむつ交換などがそれにあたりますが、そのときわたしたちは、ケアを受ける人にどのような触れているのでしょうか。


認知機能が低下して点滴の理由が理解できない人には動かないように腕を押さえて点滴を入れる、おむつ交換の必要性が理解できない人には足を強引に広げておむつを交換する、これはケアを行うために必要な触れ方なのだと、ためらいなく行っているかもしれません。


しかし、自分と周囲の状況が理解できないでいる人にとって、これは恐怖や苦痛でしかありません。ケアを行う人が「不快はともなうが、必要な行為である」と考えて行う触れ方が、ケアを受ける人にとっては単に「攻撃的な触れ方」になっているのです。これがケアをする人が陥りやすい落とし穴です。


他者に依存しケアが必要になった人は、快・不快の情動を頼りに生きています。だからこそ、私たちはプロフェッショナルとして、意識的に「広く、優しく、ゆっくり」触れる必要があります。