第2014冊目 その話し方では軽すぎます!  エグゼクティブが鍛えている『人前で話す技法』 [単行本] 矢野香 (著)


その話し方では軽すぎます!  エグゼクティブが鍛えている『人前で話す技法』

その話し方では軽すぎます!  エグゼクティブが鍛えている『人前で話す技法』


地声とよそゆき声の使い分け


「何だか軽い」


「何だか信用できない」


あなたの周りでそう思ってしまう人の声は、どんな声ですか。


ちょっと高めのよそゆき声ではありませんか。たまには地声を混ぜてみるのも、話し方を重くする大事なポイントです。


ここで指す「地声」とは、その人が生まれつき持っている声、つまり、普段家族と会話をしているときのような飾らない声のことです。


一方、高めの「よそゆき声」とは、家族と話していて、携帯に誰からかわからない着信があったときに「はい、もしもし」と出る、つくろったヶ夫のことです。


特にアクシデントが起きた場面、謝罪の場面では、よそいきの声で演技し続けるのではなく、地声を出してください。そこに人間性が現れ、謝罪のときですら相手から信頼を得ることができます。


九州に勤務していたときのことです。素晴らしいよそいき声と地声の使い分けを見かけました。長崎県に本社がある通販大手ジャパネットたかた高田明社長の謝罪会見です。二〇〇四年に起きた顧客の個人情報流失についての謝罪会見でした。


会見での高田社長の話す態度は、真っ直ぐ正面を見て、顔も眉も体もほとんど動さず、瞬きもせず静止画面のようでした。そして声は、トレードマークの甲高い声ではなく、低いトーンでゆっくりと語っていました。


本来、高田氏の地声は、甲高い声ではなく、この会見時の低いトーンだと思われます。おなじみの声はよそいき声なのです。謝罪という場ですから、地声で臨んだのでしょう。


会見が進むにつれて、話の内容が謝罪や事件に対する会社の対応ではなく、会社の展望などの話題になってとき、高田氏の声はどうなったと思いますか。通販番組のときほどではなかったにせよ、どんどん声が高くなっていったのです。つまり、地声からよそいき声に近づいていったのです。


ある研修講師の方に伺った話によると、この高田氏の謝罪会見の映像は不祥事後に売上げを増やしていったまれな例として、企業研修で教材としても使われているそうです。


相手に何かを謝るとき、真剣な気持ちを伝えようと、神妙なよそいき声で、ゆっくりと「も〜しわけ、ございません」とやってしまう方がいます。これは、演技がかった謝罪方法です。かえって怒りを増幅しかねません。


予想していなかったアクシデントだからこそ人間らしく必死に対応する。そのときには、演技をしている余裕はないはずです。思わず地声で話してしまうはずなのです。地声とよそいき声の使い分け。そこにご自身の人間性が現れ、その重みを相手は測っているのです。