第1162冊目  どうしたら「デキる男」に見えますか? - 印象戦略30のノウハウ (中公新書ラクレ) [新書] 岩井 結美子 (著)



伸びる口調


早口や声の大きさに関しては、自分がどの程度なのかを自覚している方が多いので、本書を読んでいただくだけでも良いヒントになった方はいると思います。


実際に研修でも「僕、早口なんですよ」「声が大きいでしょ」と自覚している方は多いです。しかしながら、この「口調」に関しては、自覚していない方がほとんどと言っていいでしょう。口調はその人独特の上がり下がりやキレ、弾みなどがありますので、なかなか本人に伝えづらいと思います。なんか気になるけどどうやって伝えたらいいのかわからない、といったところでしょう。


未熟な印象を与える口調と言えば「ヒステリック」と「棒読み」です。


これは私自身のことですが、時間がない時にスタッフへ指示をしなくてはいけない時や体調がすぐれない時などは、つい口調がヒステリック(鼻息荒く興奮気味)になりがちですので、気をつけるようにしています。感情がコントロールできていないことが、このヒステリックな口調によって丸出しになり、未熟な印象を与えてしまう恐れがあるからです。過去にも、ヒステリックな口調で部下を叱る上司がいましたが、途端に部署内からの尊厳を失っていました。


ヒステリックな口調と言うのは、声高に話す感じです。逆ギレキャラのお笑い芸人さんのような声を張り上げる口調です。実際に興奮もしておらず感情的になっているわけでもないのに、ヒステリックに聞こえてしまう口調の方は、子どもがわめいているのかのような幼稚な印象を与えてしまうので要注意です。


もうひとつの「棒読み口調」。これは、20代前半の若い世代に圧倒的に多いです。「あのぉ〜」「えっとぉ〜」「それでぇ」「よろしくお願いしまぁす」と言ったふうに、「ぉ」「ぇ」「ぁ」のところで伸びるのが特徴です。電話で「お電話ありがとぉございまぁす。株式会社○○でございまぁす」と出ると、この子は新人だなとすぐにわかります。このように抑揚や強弱がなく母音が伸びる語り口調は、近年の新入社員研修の受講者に驚くほど目立ちます。


また、男性に多いのが「いいっすよ」「そんなことないっす」といった具体に、「っ」が入る口調。若者に人気の芸能人がこのような話し方をしているのが受け入れられたのかもしれませんが、ビジネスシーンでは封印しましょう。まるで、スーツを着たアルバイトの学生と商談しているような気持ちになり、非常に頼りないです。


棒読みは話している内容に気持ちが入っていないように聞こえますし、身を入れて人の話を聴いていないようにも聞こえます。これでは、やる気のない印象を与え、場合によっては相手に無礼でもあります。私の知り合いの社長で、取引先の担当者が「棒読み口調」の新人だったために、「もっとベテランの担当者に変えてくれ」とクレームをつけた人がいます。また、「最近の新人は可愛げがない」と怒りや寂しさを訴える管理職の声は四方八方から聞こえてきます。話をうかがうと決まって「棒読み口調」による印象の悪さが原因のひとつに上がっているのです。恐ろしく誤解されていますよ、若い世代の皆さん。


仕事へのやる気、成長欲求、商品の良さ、あなたの人柄、お客様への誠実な思い……。これら全てが、未熟な口調に阻害されて相手へ届きません。声音のないメールでのコミュニケーションのように、文章表現だけを気を付けていればいいというわけにはいきません。電話、対面のどちらも声を出して話をしますので、口調は重要な印象戦略のツールだと思ってください。


好ましい口調のイメージとしては、バラエティ番組で司会を担当している時のアナウンサー(羽鳥慎一さんや安住紳一郎さん)の話し方が挙げられます。「です」「ます」と語尾をはっきりと発声し、かつ抑揚のある口調。原稿を読んでいるような無機質な話し方ではなく、人となりもにじみ出て温かさがありますよね。訓練を積んでいるアナウンサーの口調は、その個人特有の癖がないので耳障りな感じがなく、成熟した話し方の代表とも言えます。


私の経験上、プレゼンテーションのトレーニングの際、受講者に変化が見られるまでに最も時間を要するのが「口調」です。表情や姿勢のほうが、比較的意識して修正しやすいというのが私の見解です。一度しみついた口調はそう簡単には変えられません。


ではどうやって修正していったらいいのか。


これもこの章の冒頭でお話ししたように「真似る」という方法をお勧めします。「まぁす」「でもぉ」といった伸びる口調をやめよう、やめようと思っていても、どんな口調で話すのかを決めていないと、日常で持続する意識が保てません。それよりも、自分が目指す話し方をしている人を見つけて、その人の真似をしながら話し続けるほうが無理なく修正できます。伸びる口調がなくなるだけでなく、抑揚や強弱なども同時に身につくので一石二鳥!「目標の自分」に近づくための訓練のほうが楽しく続けられるのではないでしょうか。