1152冊目  はじめての後輩指導―知っておきたい育て方30のルール [単行本]田中 淳子 (著)


はじめての後輩指導

はじめての後輩指導



部下や後輩からみてカッコいい上司になる


ある人の話です。


若い頃、「ある程度の年齢になったら、服装をきちんとしろ。持ち物もそれなりのものを揃えろ」と上司にいわれたそうです。「長く勤めてもこの程度の服装しかできないのかと部下や後輩が夢を抱けなくなるから」という理由からだそうです。現在は、長く勤務しても給料が自動的に上がっていくとは限らない時代ですから、このアドバイスは現実に照らすとかなりきびしいものかもしれません。でも、この上司のいいたいこともよくわかります。


職場で、上司や先輩の服装や身だしなみは案外よく話題にされます。「なんだろ、うちの上司が同じネクタイを三日もしてくるんだけど。替えればいいのに」「あの先輩、いつも寝癖。もうちょっと身だしなみに気をつけてくれないかなあ」などと、部下や後輩は細かいところを見ています。


もちろん、「あの先輩、おしゃれだよね。すてきなスーツをさりげなく着ている」とか、「いつもズボンをびしっと筋がついていてカッコいい」というように、魅力的にみえるときも話題にのぼります。上司がかっこいかどうかは、部下にとって大きな関心事です。


まずは身だしなみは、高級なものというより、きちんとしたものであることが必要です。よれよれのスーツ、擦り切れたワイシャツ、はげかけたマニキュアなどではなく、さっぱりしてきれいにみえる格好をしていてほしい、上司と出かける際に、同行した部下として恥ずかしくないようにしていてほしいなどと、部下は思うものです。


仕事ができる人は、身だしなみがきちんとしているともいわれます。あるリーダーは、リーダーに任命されてから、「カッコいいリーダーでいよう」と決意し、服装や身だしなみに気をつけるよう心がけました。見た目からはじめようと思ったからだそうです。部下からみれば、ファッションそれ自体も問題ですが、それよりも年齢にかかわりなく身ぎれいにしていようとする気持ちがあるかどうかが大切なのです。


部下や後輩は、上司や先輩の言動もきびしくみています。


入社三年目の人の話です。三十代半ばの上司と外出したときのこと、はじめての同行で緊張していましたが、移動の電車のなかで、普段できない会話もできるのではないかという期待をもっていたそうです。ところが、電車に乗り込むと同時に上司は、ビジネスバックから週刊漫画を取り出し、やおら読み出したといいます。それだけではありません。厚さのある漫画本を手だけではもちにくいのか、大胆に組んだ足の上において読みふけったというのです。彼女は帰社後、私にこういいました。


「はじめての外出はとても勉強になりましたが、上司が、漫画を出して読みはじめるんですよ、こちらはいろいろ打ち合わせなどできるかと思ったのに。第一、車内で漫画を読まれて、一緒にいて恥ずかしかった」


「漫画くらいいいじゃないですか」と思うかもしれませんが、それは時と場合によります。移動時間とはいえ、仕事中です。「上司が漫画はないでしょ」と思うのは当然です。会話の機会と思っていた部下に対して漫画を読んでいたのでは、部下によい印象を与えるはずはありません。


カッコいいか、カッコ悪いかはいろいろな場面で上司を判断する物差しになります。金銭についても「身銭を切る」かどうかでカッコよさをみています。


一般に、ケチな上司、ケチなリーダーは「ケチだ」ということだけで評判になりやすいものです。部下やメンバーを自分から誘っておきながら、いざ支払いの段階になると十円単位までワリカンにするなどは評判の悪い行為の筆頭です。一方で、出張先からお土産を買ってきてくれたとか、残業していたら差し入れをもってきてくれたなどは、部下や後輩がうれしかったこととして記憶にとどめていることも多いのです。


現に私が、研修などで「やる気が高まったとき」というアンケートをとると
、若手・中堅社員から必ずある項目に「残業していたらおやつを差し入れてくれた」とか、「食事をおごってくれた」といったものが含まれるのです。


「懐具合は部下やメンバーとさして変わりがないのに、そんなにおごれない」と思うかもしれませんが、ぶかやメンバーはそうはみていないものです。いつもとはいわないまでも、宴会のときは少し大目に支払うとか、出張したら三回に一回くらいはお土産を買ってくるとかで、できる範囲でよいのです。そういう「身銭を切る」行為をみて、部下やメンバーは、「ああ、気にかけてくれている」と感じます。そして自分がその立場になった暁には、今度は自分も部下やメンバーに同じようなことをしたいなと思うようになることでしょう。