第1127冊目  小泉進次郎の話す力 [単行本(ソフトカバー)]佐藤綾子 (著)


小泉進次郎の話す力

小泉進次郎の話す力



ネタの変更は、臨機応変自由自在に


二〇一〇年四月九日/国会討論(北沢防衛大臣と激突)
小泉純一郎君」
「いや、これは失礼、小泉進次郎君」
「早速に緊張を解いてくださってありがとうございます」


二〇一〇年四月九日、小泉進次郎氏は北沢防衛大臣と激突します。この緊張に満ちた国会討論の場で、議長がこともあろうに小泉進次郎氏の名前を呼ぶのに、真面目に本気で間違えてしまいました。「小泉純一郎君」と呼び上げて、「いや、これは失礼、進次郎君」と言い換えたのです。これへの答えは絶妙でした。「早速に緊張を解いてくださってありがとうございます」と、このように返したのです。


もちろんこれは原稿に書いてないセリフです。起きた事柄自体が、想定外のことですから。しかし、書いてきたことだけを言わなければならないと頭のなかがいっぱいになっている新人議員には、なかなかこんな切り返しはできないはずです。


それでも当意即妙に、「早速緊張を解いてくださってありがとうございます」と言って笑わせます。


しかもこの間違いは、聞き手全員に、「あの演説の名手、長期政権を維持した手ごわい相手、小泉純一郎の息子なのだ」ということを、議長がいかに重く感じているかという議長の潜在意識をもう一度再認識させることになりましたから、これは二重の意味で効果がありました。


この時、普天間基地の問題についても、彼はほとんど原稿を見ずに、「最低でも県外と言ったことはウソではないか」と詰め寄ったのですが、やりとりのあいだ、一度も下を見ません。目は北沢防衛大臣を見据えて背筋を前掲させて詰め寄ります。


とても若手のなりたての議員とは思えない迫力です。父親そっくりに右手をガンガン振り回し、大臣の顔にまっすぐ視線を当てて「ウソだ」と言ったのですから、あわてて、視線を下に落としたのは大臣のほうでした。


相当な迫力でした。やむなく北沢防衛大臣が「最低でも県外と言ったからウソとは言えない。なぜならば努力しているのですから」と答えたのが、まるきり小学生の応答のように幼稚に聞こえました。


何かを言って、それを決まった期限までに全然実行せず、「ウソを言ったではないか」と言われて、「今やっているところだ」と言うのは、よくあるそば屋の出前と一緒で、「まだ出ないのか」「いや、今出たところだ」と何の反論にはなっていないのです。


こんな返答をたじたじと北沢大臣がしなければならないほど、この日の進次郎氏の攻め方は口調も鋭く、身振り手振りが激しく、声のボリュームはマイク不要の大きさで、つまるところ、練習に練習を重ねてこその自信があったにちがいありません。言い間違いも一切なく、原稿から目を上げての素晴らしい完成度でした。