第1111冊目  ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫 [文庫]G.キングスレイ ウォード (著), G.Kingsley Ward (著), 城山 三郎 (翻訳)


ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫

友情は手入れしよう


友情は事業にどんなかかわりがあるのだろう? 考え方によっては大いにあるが、ほかの考え方をすれば、零以下だろう。友情が誰かを利用して「儲ける」ための手のこんだ方法を隠す見せかけでしかない場合も考えられるからである。君は実業界で、いろいろな人に出会うだろう。君の所属する社会の近代的な断面に触れると言っていい。工場の従業員、販売先、仕入れ先、取引き先、政府の役人。そのほかに仕事以外で会う人たちもいる。隣人、教会やクラブの会員、店員、自動車の修理工、それに私たちの場合、飛行機仲間や釣り仲間。ずいぶんたくさんの人たちである。そのすべてが君の親友になるわけではないが、みんなある程度は友達で、この地上で人と交わる喜びを与えてくれる。


サミュエル・ジョンソンはかつて言った。「新しく人と知合いにならなかった日は、その日を失ったような気がする」。もっともな考えである。ほかにどこから友情が芽生えるだろう? 誰かに初めて会って、挨拶を交わし、会話から心が通うようになり、しばしば友情の促進剤になる「いつか昼食でもどうです?」で、交際が始まるのである。ついでながら、そのつもりがないのに、言葉だけの招待をしないように。行動が伴わないと、浅薄だと解釈される。


そのような日常の偶然の出会いから生まれるのは、まさに基本的な友情である。人間の特性として、個人的な友情の小道で付き合いたいと思う人には自然に惹かれるのである。魅力を感じない人との間に友情を育もうとすることほど、空しく、挫折感を感じるものはない。それよりも厄介なのは、誰かが君と友だちになりたがっているのに、君のほうがその人に全然魅力を感じない場合だろう。しかし、そのような場合にも、邪険な態度をとててゃいけない。君と友だちになりたいという気持ちが純粋なら、その人は君の何かに惹かれたのだから、不当に君との親しい関係を求めていると責めることはできない。


この世で最も強い友情のいくつかは、知り合うことから生まれる。このすばらしい人間の結びつきのなかでも最高のものは、たいてい、夫婦の間の友情である。願わくば、君の二番目に強い結びつきは、君と君の子どもたちの間の友情であって欲しい。そのつぎが、君の両親、それから君の姻戚。願わくば、と言うのは、世の中でしばしば繰り返されるている悲劇のひとつが、血緑や結婚によって結びついた人びとの間の友情が失われることだからである。この最も緊密で貴重な友情は常に育み、温める必要がある。家族以外の人びととの友情についても同じである。損なわないためには、育てなければならない。