第1029冊目 小泉進次郎の話す力 [単行本(ソフトカバー)]佐藤綾子 (著)
- 作者: 佐藤綾子
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2010/12/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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あえて原稿を見ず、自信を演出する
二〇一〇年五月一三日/衆議院本会議
「私は委員長の解任賛成論をこれから展開します」
「なぜ賛成するのかという理由を三点を順を追って言っていきます」
「仙谷大臣が正当だと言った公務員の費用削減のアイディアに対する三つの反対理由を箇条書きに反論していきます。例えば公務員を二割カットするために採用を控えなければならない。古い人を辞めさせないのだから採用を控えなければならない。そうなれば霞ヶ関は高齢化します」
進次郎氏が応援演説のような、政治のプロフェッショナルではない一般市民に話すときだけに演説の才能を発揮すると思ったら、とんでもない間違いです。
彼の本当の恐ろしさは、経験豊かなプロフェッショナルに対してもまったくひるむことなく、時には原稿も見ずにガンガン自説を展開する能力です。それらの専門演説のなかで私の記憶によく残っているのは、二〇一〇年五月一三日の衆議院本会議における彼の発言です。
名前を呼ばれてスタスタと大幅なステップで登場した進次郎氏は、「このように立派な業績を立ててきた田中委員長に反対するのは非常に残念ですが」と通り一遍の美辞麗句を使ったあと、「私は委員長の解任賛成論をこれから展開します」と言って、それから、「なぜ賛成するのかという理由三点を順を追って言っていきます」と予告しているのです。
このように自分がこれから言うことが三点あり、手短に三点のポイントだけを先に言って、あとから順を追って事細かに説明していくというやり方は、西洋型のプレゼンのテクニックでは最もよく使う模範的なやり方です。
私の「ASプレゼンテーションメゾット」でも、いつもビジネスマンに教えているやり方で、相手の心に最も理路整然と、しかも強い自信とともに伝わっていくやり方なのです。「三点ある」と聞いた人は、一は何で二は何で、三は何だろうと耳をそばだてるわけです。
そこで彼はこう言うのです。「私たちに暴力行為はありませんでした。あったのは民主党の強行採決であります」。この時、彼はまったく原稿を見ていません。
右手を大きく振り上げ、首を大きく振って、ワーッと飛んでくる大きな声の野次のあいだ、次の言葉を発しないのです。そして、「ご静粛に」という議長の声とともに少し静まったタイミングを見計らって、「強行採決があった、そうでない、もし間違っている、暴力行為はなかったということがわかったら、潔く撤回してほしい」。これは会場が割れるほどの大声でした。
そして、反対議員たちの目をまっすぐ見つめながら、民主党の主張のなかの無理をきちんと三点挙げていくのです。「仙谷大臣が正当だと言った、公務員の費用削減のアイディアに対する三つの反対理由を、箇条書きに反論していきます。例えば、公務員を二割カットするために採用を控えなければならない。古い人を辞めさせないのだから、採用を控えなければならない。そうなれば霞ヶ関は高齢化します」というわけです。
この発言をビデオに録って何度も聞いてきた私は、なんと弁舌が論理的に構築されているものか、しかも原稿を見ていない、と驚きました。何点と予告するやり方、騒音内では決して次の言葉を発しないというやり方、先輩を頭ごなしに否定せずに、その人に反対するのは残念だと言ってから、実際には反対するやり方。若いのにすぜての演説テクニックを心得ていることに舌を巻きました。
しかも、それらの決めゼリフ、リピートして主張点を言う時、彼は決して原稿を見ません。次のストーリー展開に移る時だけに、下を置いて原稿を見ているのです。
このことによって自信の演出がされます。何かを話す時、原稿を持って話す癖のある読者は、直ちにそれをおやめください。それだけでも相当に自信の演出ができます。