第965冊目  先送りできない日本 ”第二の焼け跡”からの再出発 (角川oneテーマ21) [新書]池上 彰 (著)

知的好奇心のツボをくすぐられることは快感だ


学生たちは、みな真面目で熱心でした。彼らには毎日レポートを課していましたが、きちんと提出してきます。大量のレポートに目を通す羽目になった私は、「しまった、レポート提出なんて課すべきではなかった」と後悔したものです。

でも「信州大学に入って、こんなに面白い授業は初めてです」という感想が書いてあると、疲れも吹き飛びます。だからといって、このレポートに格別にいい成績をつけたわけではありませんが。

学生たちは、なぜ私の授業を面白いと思ったのでしょうか。ひとつには、講義の内容がこれまで聞いたことがない、知らないことばかりだったからでしょう。正しく言えば、どこかで一度は聞いたことはありけれど、実はちっとも理解していなかったものごとの意味が、どんどんひも解かれていく。そして、今につながる話なのだということに気づき、現代の中国が、ヨーロッパが見えてくる。そんな経験をしたからでしょう。それは「いま」を知る上で現代史が役に立つということに気づいて、知的好奇心の扉が開いた瞬間だったと思います。

その証拠に、私の講義を受けた学生たちの多くが、急に図書館に行って関連の参考文献を読み始めたそうです。もっと知りたくなったのでしょう。

新しい知識は、いままで曇っていた視界を少し明るくしてくれます。「中国と台湾の関係はそういうことだったのか」と分かった途端、ニュースの言葉がはっきりと意味を持ち、色彩を放ち始め、世界がリアルに感じられてくるでしょう。脳の中であちらこちらの知識がつながって、新しい「理解」が生まれる。それは快感なはずです。それが新しいことを知る喜びというものです。

欠落したジグソーパズルのワンピースを見つけて、知りたいと思う。そういう思考回路の人は、知的好奇心のある人です。そういう視界回路が習慣として定着すると、知識欲と理解の好循環が生まれるのだと思います。