第3595冊目「権力」を握る人の法 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)

 

 

 

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

 

 

 

-自分の本領にこだわり続ける

 

 

何事であれ、ある分野で一定以上の地位を獲得している人は、その分野で人並み以上にすぐれていると考えてよい。たしかに仕事上の実績は出世にあまり関係はない。それでも、あなたが会社で昼寝をしているのでないかぎり、ある程度の地位に到達するまでにはスキルを身につけ経験を積んでいるはずである。したがって万一クビになったとしても、まったく別の仕事に就こうなどとは考えない方がいい。経験も人脈も、すべて仕事を通じて培われたものが多いことだろう。言い換えればあなたは、仕事の関連づけられた人的資本と社会資本を蓄積している。あたらしい分野に身を転じるメリットはいくらかあるにしても、それによって失うものも多い。

 

 

ジェフリー・ソネンフェルドは、失業の身になったときにいろいろな人に相談した。コンサルタントになる選択肢もあったし、CEOカレッジの大口出資者である企業の伝手を頼って経営者になることも考えられた。だがソネンフェルドにはコンサルティングの経験はないし、まして実務経験とはまったく無縁だった。彼の本分は、あくまで教育になる。ソネンフェルドの名声を高め、テレビに出演したり「ビジネスウィーク」誌に取り上げられたりしたのは、すべてCEOカレッジのおかげだった。また、名だたる企業のCEOを一堂に集めてオフレコの本音討論会を主宰してきたことは、モデレーターやオーガナイザーとして高い評価につながっている。そうした討論会は、事件の前はエモリー大学で開いてきたが、場所はどこでもいいはずだった。大事なのは、有能なCEOに声をかけ集められるという彼の実績と手腕である。

 

 

そこでソネンフェルドは、非営利組織チーフ・エグゼクティブ・リーダーシップ研究所をアトランタ市内に設立する。するとうれしいことに、CEOカレッジに出資した企業の多くが、こちらも支援してくれた。またソネンフェルドは、エモリー大学から優秀なスタッフを引き抜くこともできた。彼はあちこちの企業に声をかけて再び主宰し、多数の論文を発表した。こうした地道な努力は次第に実を結ぶ。またその間に自身の無実が立証されたこともあり、CBSの人気番組「六〇ミニッツ」で取り上げられるまでになった。こうして評判は回復し、晴れた学界に復帰を果たしたのである。