第3564冊目「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)

 

 

 

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

 

 

 

上司を気分よくさせる最善の方法は、何と言っても誉めることである。このことは調査によっても裏付けられており、誉め言葉は影響力を手にする効果的な方法だとされている。誉められて悪い気のする人はいないし、誉めてくれた相手に好意を抱くのも自然な感情である。そして好かれれば、あなたはそれなりの影響力を持てるようになる。誉め言葉には、ギブアンドテイクの法則を呼び起こすという効果もある。あなたが誰かを誉めれば、その誰かもお返しにあなたを誉めようとする。プレゼントをもらったらお返しをしたり、パーティに呼ばれたら呼び返したりするのをまったく同じで、誉め言葉も一種の贈るものと考えてよい。さらに誉め言葉は、ほとんどの人が持っている自己高揚動機に応えるという意味でも効果的である。

 

 

アメリカ映画界の巨人ジャック・バレンティは誉め言葉の威力をよく知っており、その使い方もわきまえていた。バレンティはアメリカ映画協会の会長として三八年にわたり活躍していたが、映画界に身を置く前に、リンドン・ジョンソン大統領の特別補佐官を務めていた。一九六五年にジョンソン宛に書いたメモの中で、バレンティは次のようにアドバイスしている。「大統領は、人間の普遍的な感情に訴えかけることで支持を得られるでしょう。それは、自分は必要とされていると感じたい、そして誉められたい、という感情です」

 

八〇歳を過ぎてから書きはじめて死後に刊行された自伝の中でも、誰のこともけなしていない。人のいいところを見つけて誉める習慣は高い地位に就く前から身についており、死ぬまでずっと続いたのである。自伝は全体として穏やかで当たり障りがなく、彼が舞台裏を知っているはずの出来事の赤裸々な真実といったものは一切描かれていないため、あまり評判にならなかった。だが自伝に取り上げられた人の中で、バレンティを悪く言う人は一人もいなかったにちがいない。