第3562冊目「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)

 

 

 

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

 

 

 

-上司の気分をよくさせる

 

 

自分の仕事ぶりについて考えるとき、ぜひとも確認すべき点が一つある。それは、自分の行動や発言、そして仕事の成果は、上司をいい気分にさせているか、ということだ。いい気分というのは、あなたに満足するという意味ではなく、上司自身が自分に満足しているか、という意味である。あなたがいまの地位を確保し、さらに上へ行く確実な方法は、端的に言って上司をご機嫌にしておくことなのだから。

 

 

自分に自信のない人に限らず、ちょっとばかりうぬぼれて気分よくなりたいのは人情である。客観的に見れば人間は失敗から学ぶことの方が多いのだが、誰しも自分はなかなかよくやっている、結構優秀だなと思っていない。これを自己高揚動機と呼ぶ。こうした動機があるため、たいていの人が肯定的な意見を聞こうとし、否定的な意見を煙たがる。しかも多くの人は自分の能力や成果を過大評価し、「自分は平均以上」だと考えている。知性、ユーモアのセンス、運転能力、容姿、交渉能力などについて自己認知の調査をしたところ、回答者の半分以上が「自分は平均以上」だと答えという(そんなことはありえない)。また人間は自己愛が強いので、自分に似た人を好む傾向がある。

 

 

個人批判は、確実に上司を不機嫌にする。とりわけ上司が重大視する問題、したがっていささか不安を抱いている問題に関して痛いところを突いたら、上司の気分を害することはまちがいない。大手クレジットカード会社で副社長を務めるメリンダは、マネジャーだった頃にこれをやってしまった。当時のメリンダは審査部に属して顧客の購買・支払予測モデルの作成に携わっており、信用調査担当のオフィサーに昇格することをめざしていた。信用調査チームとの関係は良好だったから、十分に手応えはあった。ところがある日の会議でチーフ直属の部下が不快な行動をとったことに腹を立て、「会議の場であんなふうに怒鳴るなんて、チーフそっくりです」と余計なことを言ってしまう。チーフ自身もひそかにその点を気に病んでいたため、この一言にいたく傷つき、ボスが誰かを思い出させるためだけの目的で、メリンダの昇格をしばらくお預けにした。